第10章 「花は焔に、焔は星に」
「……あの、こんな時にすみません」
廊下の脇から控えめな声が割って入る。
二人が振り向くと、そこには伊地知が申し訳なさそうに立っていた。
「……伊地知?」
五条が片眉を上げる。
「っていうか、いつからそこにいたんだよ?」
「い、いえ! 盗み聞きするつもりはなかったんです、本当に……!」
慌てて両手を振りながら、伊地知は言葉を続けた。
「それより……五条さん、以前頼まれていた“火刑”に関する資料です。ようやく、まとまりました」
「あー……頼んでたっけね」
五条は伊地知から資料の束を受け取る。
綴じ紐でまとめられた数十ページほどの紙束を、めくりながら、何気なく目を走らせていく。
「の中にいる……悠蓮って、火炙りで処刑されたんですか?」
伏黒が、ふと脇から口を挟んだ。
五条は視線を資料に落としたまま、短く答える。
「――そ。生きたまま、火炙り。……残酷だよね」
五条が紙束をめくる手を止めずに言うと、伊地知が少し身を乗り出すようにして口を開いた。
「……火は、古来から“聖なるもの”として扱われてきたんです。
穢れた肉体や魂を“浄化する”――そういう意味合いで使われることが多いみたいです」
伏黒がうなずきながら口を挟む。
「……ああ。だから西洋じゃ、魔女狩りで火刑が選ばれてたんですね」
伊地知が頷きながら続けた。
「はい。見せしめの意味もありますが――
実際には、“あの世”と“この世”の境を断ち切るための、象徴的な儀式だったとも言われています」