第10章 「花は焔に、焔は星に」
「――“先生に、なんでも背負わせたくない”って」
「“一人にさせたくない”って――は、そう言ってました」
伏黒は、静かに言葉を置いた。
「は……本当は言わなかったけど」
「たぶん、先生が何か“取り返しのつかないこと”をしようとしてるの、わかってたんだと思います」
その一言に、五条の眼が、かすかに揺らぐ。
「もし、先生がその手で誰かを殺して……
それでが助かったとして――本当に、それで、彼女は喜びますか?」
伏黒は、目を逸らさずに続けた。
「それでも先生が行くなら、止めません。でも、覚えててください」
その目は、揺らがない。
「俺たちは、ただ“生きてさえいればいい”なんて、そんな救われ方をしたくない」
それは、彼自身の願いでもあった。
ただ生かされるだけじゃない。
意味のある形で生きること。戦うこと。選び取ること。
「……も、きっとそうです」
「一人で先に行かないでください。……俺を、を、あんたの“背中”も見えない場所に、置いてかないでください!」
沈黙が落ちた。
夜の静寂の中、じっと伏黒の言葉を反芻する。
掌に残る、誰かを殺めようとしていた“温度”。
それを、少年のまっすぐな声が、静かに冷ましていく。
ゆっくりと視線を落とす。
(……あの時、僕も傑にこう言えてたら……)
皮肉にも、今、自分が“言われる側”だという現実に苦笑が漏れそうになる。
けれど、それを飲み込んで、五条は片手をポケットに突っ込んだ。
「……いやぁ、まいったね」
伏黒に近づき、その頭にぽんと手を置いた。
「さすが、僕の生徒たちだ」
その声は冗談めいていたが、眼差しには確かな誇りと――
わずかな安堵が宿っていた。
「わかったよ。上は……殺さない。約束する」
伏黒が目を見開く。
「先生……」
伏黒が呟いた、その直後だった。