第10章 「花は焔に、焔は星に」
「……怖いか?」
すると彼女は、少しだけ目を伏せて、それでもはっきりとした声で言った。
「……怖いよ。でもね、五条先生が言ってくれたの」
そう言って、今度は俺の目を見て、静かに続ける。
「“面白い力だね”って」
……あの人なら言いそうだ、と思った。
「……あの人の言うことは、あんまり真に受けない方がいいぞ」
俺が眉をひそめながらそう返すと、彼女はふっと笑った。
「この前なんてさ、僕の術式を真っ向から受けたら力が発動するんじゃないかって……本気で言うから、どうしようかと思った」
「――あの人、やることなんでも規格外なんだよ」
その言葉には「確かに」と吹き出し、つい俺も笑ってしまう。
思えば、あの空気はなんとなく居心地がよかった。
しばらく沈黙があって、それから彼女が、ぽつりと漏らした。
「……私ね、査問会でちゃんと自分で証明したいんだ」
その横顔を、俺は黙って見つめる。
「本当は……私が頑張らなくても、きっと守ってくれると思う」
言葉を選ぶように、彼女は唇を噛んだ。
「でも――私、それが嫌なの。先生に、なんでも背負わせたくない」
「先生を……一人にさせたくないから」
その言葉に、思わず口をついた。
「……あの人、一人か?」
は少しだけ目を伏せて、ゆっくりと言った。
「先生は、いつも私たちよりずっと前を歩いてて……
背中しか見えないくらい、遠いところにいて」
その声には、確信のような静けさがあった。
「……きっと、ずっと一人だったんじゃないかって」
「私だって……戦いたい。ちゃんと、意味のある形で、生き残りたい」
「それで、少しでも先生に追いつきたいなって」
その時の彼女の声は、小さくてもまっすぐだった。
「……って言っても、今は守られてばっかりなんだけどね」
そう照れたように笑った顔が、月の光に照らされていた。
その笑みの奥には――
悔しさと、誇りと、ほんの少しの覚悟が、きっと折りたたまれていたんだと思う。
俺は、その笑顔を忘れられなかった。
あの夜、彼女が見せた“ほんの少しの覚悟”が、ずっと胸に残っていた。
だからこそ、いま――
この言葉は、俺の中から自然とこぼれた。