第10章 「花は焔に、焔は星に」
「いいから。……信じてなよ、僕を」
その一言に、釘崎も黙る。
やがて、しぶしぶという様子で二人は踵を返した。
――が、伏黒だけは、その場に残っていた。
「……恵?」
五条が振り返り、呼びかける。
「どうしたの? まだ僕に用?」
伏黒は、黙ってその場を動かなかった。
そして、目線を逸らすことなく、真正面から五条を見据える。
「……先生、上層部を殺すつもりですよね」
低く、感情を抑えた声。
それでもその言葉は、廊下の空気を凍らせるには十分だった。
五条のまぶたが、わずかに動く。
「……何言ってんの、恵。君には関係ないでしょ?」
軽く笑いながら歩き出そうとする。
「――関係あります」
ぴたり、と五条の足が止まる。
「……恵」
振り返らずに、少しだけ苛立ちを滲ませる。
「僕、急いでるんだけど」
吐き捨てるような声色。
それでも伏黒は動かなかった。
ただ、淡々とした語調で、静かに
それでいて鋭く、こう言い放った。
「そんなことして、を守ったって――
も、僕たちも、嬉しくありません」
その言葉に、五条の足がぴたりと止まった。
伏黒は、ゆっくりと口を開く。
「……、前に言ってました」
――あれは、夜の訓練場だった。
月明かりの差し込む広場に、ひとつの影が揺れていた。
俺はちょうど自室に戻るところで、ふと、その姿が目に入って足を止めた。
両手を胸元に重ね、じっと目を閉じて座っている。
額には汗が滲んでいて、呼吸はわずかに乱れていた。
(……)
俺の気配にも気づかないほど、本気で集中してるらしい。
「……少しは休憩した方がいいぞ」
そう声をかけると、彼女はびくりと肩を揺らし、こちらを振り返った。
「――伏黒くん?」
驚いたような顔に、俺は黙ってタオルを差し出す。
彼女はそれを静かに受け取って、目元を拭った。
「……ありがとう」
その声は疲れているようで、それでもどこか芯があった。
「査問会まで、もうあんまり時間ないから」
ぼそりとこぼしたその言葉に、俺は思わず口を開く。