第10章 「花は焔に、焔は星に」
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五条は、廊下の奥へと足を運ぶ。
鋭く靴音が鳴るたび、胸の奥の何かが冷たく軋んだ。
――殺す。
そう言い切った自分の声が、まだ耳に焼きついている。
(……もう、それしか方法はないのか)
助ける方法を探して。
守る術を模索して。
でも。
もう、そんな悠長な夢は終わった。
今ここにあるのは――
誰かを救うために、誰かを殺すという現実だけ。
唇を噛み、拳を強く握った。
ふと、脳裏に浮かんだのは――傑の顔だった。
あの日、かつての親友が選んだ道。
「術師だけの世界を作る」
“弱者”を淘汰するという大義のために。
傑は非術師を殺し続けた。
(……じゃあ、僕は?)
傑の言い分を否定し、断罪したこの手で――
今、自分もまた、“正しさ”を叫んで人を殺そうとしている。
(……はどう思うんだろうな)
その瞳が、自分を見て、怯えるだろうか。
失望するだろうか。
それとも――拒絶するだろうか。
(……それでも構わない。たとえ、嫌われても)
彼女の心に、僕という存在が傷を残すことになっても。
それでも守りたい。
それでも、生きていてほしい。
――この道の先に、罰が待っていようと。
「先生ーっ!」
そのとき、廊下の奥から誰かが叫ぶ声がした。
反射的に顔を上げると、虎杖たちがこちらに向かって走ってきていた。
「が処刑されるって――本当なんすか!?」
駆け寄るなり、虎杖が息を切らしながら問い詰めてくる。
その瞳は、信じたくないと叫んでいた。
「なんとかなんねーの?先生」
その声に、釘崎も続く。
「“最強”なんでしょ? 本気で、見殺しにする気なの?」
真っ直ぐな眼差し。
誰かを救いたいと叫ぶ、真っ当な怒りと祈り。
五条は小さく息を吐き、ふっと笑みを浮かべた。
「……僕がを見殺しにするわけないでしょ」
いつもの軽い口調で、余裕めいて言ってみせる。
「だーいじょうぶ。僕がなんとかするからさ」
そして、近くに立っていた虎杖の頭にぽんと手を置いた。
「帰った帰った。君たち、明日任務でしょ?」
「……でも、俺たち……」
虎杖が食い下がろうとする。