第10章 「花は焔に、焔は星に」
横流ししていた術具の件――
あれを揉み消す代わりに、の居場所を差し出せと上に言われたのだろう。
「……処刑決定の速さも異例ですよね」
「まるで――“最初から、決まってた”みたいな」
五条は静かに目を伏せ、ひとつ息を吐いた。
「……の中の“悠蓮”が目覚めると、相当まずいってことだろ」
蒼い双眸が、ゆっくりと上を向く。
「だから焦ってる。……明らかに、何かを隠してる」
だったら――と、五条の中で何かが決定的に傾いた。
「こっちだって、黙って従う気はない」
上が強硬に出るなら、それに応じたやり方がある。
そう言わんばかりに、五条は静かに言い放った。
「……たとえ上を殺してでも、僕はを守るよ」
静かに、だが決定的な声音で言い切ると――
五条はドアノブを掴み、乱暴に扉を開け放った。
そのまま背を向け、足早に廊下の奥へと消えていった。
バタン、と扉が閉まったあと――
夜蛾は、疲れたように大きく息を吐いた。
「……伊地知」
呼ばれた男は、びくりと肩を揺らす。
「悟を見張れ。……何をしでかすかわからん」
「――は、はいっ!」
伊地知は慌てて姿勢を正すと、すぐに部屋を飛び出していった。
残されたのは、深く沈黙した空間と、硝子のため息だけだった。