第10章 「花は焔に、焔は星に」
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「……“会えない”って、どういう意味だよ」
学長室に、怒声が響いた。
五条は机越しに夜蛾を睨みつけ、拳を握りしめたまま一歩も引かない。
その眼には、怒りと焦燥、そして――確かな絶望が宿っていた。
「処刑が決まったからって、本人に会うことすら禁じるってのか? ……ふざけてるだろ、さすがに」
夜蛾は言葉を選びながら、静かに答える。
「……命令だ。上から、“処刑前の関係者接触は禁止”と通達が下りている」
「上の決定がなんだよ。僕にこのまま、見殺しにしろって――」
「悟っ!」
夜蛾が声を荒げて遮る。
「落ち着いて聞け。……は、査問会前に無断で逃亡した。呪術規定に照らしても、明確な違反行為だ」
言葉の重みが、部屋の空気をさらに鈍くする。
「今、お前が動けば動くほど――
彼女の立場は、ますます危うくなるだけだ」
五条は拳を握ったまま、じっと夜蛾を睨みつける。
扉の前に寄りかかっていた硝子が、静かに口を開いた。
「……それにしても、どうして“上”はの居場所を特定できたんでしょうか?」
「伊地知がどんなに探しても見つからなかったのに、あっちはピンポイントで押さえてるなんて、ちょっと出来すぎてる気がするけど」
伊地知も沈黙を破り、低く呟く。
「……報告を受けたのは、昨日の深夜です。“内部からの通報があった”と」
その言葉に、空気が冷え込んだ。
(――深雪か)
伊地知の言葉に、五条は小さく目を伏せた。