• テキストサイズ

【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


魔導の訓練で、思うようにいかずに肩を落としていたあの日。
夕暮れの光に照らされた横顔。
伏せられた睫毛の影、わずかに結ばれた唇。


(……あの顔、可愛かったな)


あの時、どうしようもなく抱きしめたくなった。
でも、それをやったら――たぶん、また拒まれる。


思わず口元が緩みかけたが、軽く首を振って打ち消す。


(……あれも、言いそびれたままか)


制服を受け取ろうとしたとき、ふと触れた指先。
は驚いて引こうとしたけど、僕はそのまま、そっと重ねた。
そのまま繋いで――
名前を呼んで――


(……言うつもりだった、好きって)


でも。


(深雪のやつが、間の悪いことに入ってこなければ)


思い出すたびに、こめかみが痛くなる。
あと三秒、いや、たった一秒。
もしあのまま続いてたら――


の方からも「好き」って言ってくれて――


(キス、できたかも)


とかなんとか、つい妄想が暴走しかける。


小さくため息をついて、額を指先で押さえた。
まったく、何考えてんだって話だ。


でも。


(のあの目を見たらさ――そりゃ、期待しちゃうでしょ)


ほんの一瞬。
確かに、迷ってた。けど、僕を見てた。
逃げなかった。


……ああ、もう、ほんとに。


――早く抱きしめて、キスしたい。


そう胸の中で呟いたところで、ようやく現実に意識を引き戻す。




「……っと、それより査問会どうするかだな」



こめかみを指で軽く叩いて、机の上に視線を戻しかけた、そのとき――


コン、コン。


控えめに、けどちゃんと聞こえるノックの音。



「……ん?」



こんな時間に?
硝子ならノックすらしないで勝手に入る。……伊地知か?



「はいはーい、どなた~? 開いてるよ」



そう声を上げると、扉がすこしだけ開いて――



「……先生、まだ起きてます?」
/ 442ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp