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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


店内では、誰かがスプーンをカップに当てる音が響き、外からは車のクラクションが遠くに聞こえる。
その音すら、今のには別の世界の出来事のようだった。


(私が消えれば……先生に迷惑をかけずに済む)

(みんなも危険に巻き込まれない)

(……うん、たぶん、そのほうがいいんだと思う)

(私がいなければ、誰も困らない。先生も、傷つかずに済む)

(――そう、わかってる。頭では)


高専に入る前の、あの“普通の生活”に戻るだけ。
呪霊も、任務も、命を張ることも、もう全部――必要ない。


(毎日、電車に乗って、高校に行って……家に帰って、ごはん食べて、寝るだけ)

(あの頃みたいに。普通に、生きていけばいい)

(だけど――)


胸の奥で、ぽつりぽつりと、顔が浮かんでくる。


虎杖くんの、嫌なことも吹き飛ばしちゃうくらい、太陽みたいな笑顔。

野薔薇ちゃんの、いつも口は悪いのに、どんなときも味方でいてくれる強さ。

伏黒くんの、言葉少ないけど、ちゃんと見ててくれる静かな優しさ。

硝子さんの、皮肉っぽくて気だるげなのに、どこかあったかい空気。

伊地知さんの、いつも慌ててるのに、いざってときは絶対に背中を預けられる頼もしさ。




そして――先生。




ふざけてるようで、ちゃんと見てくれてて。
いつも適当そうなのに、いちばん頼れる人で。
ずるいくらい強くて、かっこよくて。


『大丈夫、僕がついてる』

『は、僕が守るよ』


……あのときの手、あったかかったな。
あのまま、ずっと握ってたかった。
でも、それをしてたら――先生を壊しちゃうかもしれない。


(だったら、消えたほうがいい……のに)

(どうして、こんなに、嫌なんだろ)
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