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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


***


昼下がりの中庭は、柔らかな陽射しの奥に、初夏の気配が忍び込んでいた。
は人気のない中庭で、ひとり練習を続けていた。


――あのとき、訓練場から逃げるように出てきてしまった。


五条と深雪が言葉を交わす様子を、どうしても最後まで見ていられなかった。
二人の間に流れる気安さ、遠慮のなさ。


その光景がふっと浮かんで、胸の奥がつんと痛む。


(……先生、あんなふうに笑うんだ)


指先に力が入る。


けれど、すぐに小さく首を振った。
頬をふくらませるようにして、呟く。



「……もう。今はそれどころじゃないから」



自分に言い聞かせるように、そっと息を吸い込む。



「練習、練習……魔導、出てこいってば……!」



その手には、摘んできたばかりの小さな花が握られていた。
校舎裏で見つけたマーガレットやビオラ、クローバー――


(……花が関係するか、ダメ元だけど)


そう自分に言い聞かせながら、両手を胸の前で重ね、ゆっくりと目を閉じる。


その瞬間、手に持っていた花からひとひらの花弁がふわりと舞い上がった。
胸の奥が熱くなり、全身を駆け抜ける鼓動とともに、光の粒がゆっくりと輪を描き始めた。


息をするたび、世界が一瞬だけ研ぎ澄まされていく。
――もう少しで何かが形になる、そのとき。



「ちゃん?」



近くから柔らかな声がして、ははっと目を開けた。


……すべてが、静かに引いていた。


光の粒も、空気の熱も――まるで夢の中の出来事だったかのように。
ただ、手のひらに残る花の感触と、風にさらわれた一片の花弁だけが、それを確かに物語っていた。



振り返ると、日傘を傾けた深雪が立っていた。
淡いクリーム色のワンピースに陽が透け、栗色の髪が風に揺れる。



「……ごめんね、取り込み中だった?」



そう言って、深雪は少しだけ首を傾げる。
は思わず、手の中の花をぎゅっと握りしめた。



「いえ。……あ、五条先生なら、今日は任務ですよ」

「知ってる。今日はちゃんとおしゃべりしたくて。……甘いもの、好き?」

「えっ……?」



驚きの声が自然と漏れる。
深雪は微笑んだまま、日傘をくるりと回した。
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