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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


「……で、なんで京都から高専?」



五条は深雪を軽くあしらいながら問い返す。



「任務で東京に来たついで。それと――査問会に日向家代表として出席することになったの。だから、しばらく東京滞在」



そう告げた後、深雪はぱっと目を輝かせた。



「ねぇ悟、東京案内してよ」

「は? めんどくさ。僕は任務と生徒の指導で忙しいの」



あっさり切り捨てられても、深雪は気にも留めず「えー、ケチ」と笑う。


そのやりとりが、には遠くの景色のように感じられる。
二人のやりとりも、耳に届いても通り過ぎていく。


(……深雪さん、綺麗で上品なのに、どこか親しみやすくて――先生の隣にいるのが似合う人)


気づけば、ずっと指先が強く握られていた。


(……なんで、こんな)


目の前で笑い合う二人は、過去も家も知っていて。
自分だけが場違いな場所に立っているような錯覚に、呼吸が詰まりそうになる。


(私はただの生徒で、先生とは……そういう関係じゃないのに)


必死に自分をなだめるように、歯を噛みしめる。
恋人でも、婚約者でもない。
何ひとつ――名乗れる関係じゃないくせに。


(……見たくない)





「、中断して悪いね。訓練、続けようか」



五条の声に我に返り、はかすかに首を振った。



「……もう大丈夫です」



その声はどこかぎこちなく、それでも精一杯の平静を装っていた。



「……あとは、一人でやってみるので。ありがとうございました」



そして小さく会釈をすると、何も言わずに背を向けた。



「ちょっ、――」



呼び止める声が背中に届く。
それは、あまりにも優しくて、あたたかくて、今は聞いてしまえば崩れてしまいそうで。


(……ごめんなさい、先生。今は振り返れない)


心の中でそう呟きながら、足早に訓練場を後にした。




足音が、板張りの床にかすかに響く。
ただそれだけが、自分がここにいた証のようで――
は、俯いたまま扉の向こうへ消えた。
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