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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


「さとるー!」



背後から弾むような声が割り込み、張り詰めた糸がぷつりと切れる。
五条はほんの一瞬、指先に名残を残しながらも、すっと手を離した。


振り返ると、そこには見知らぬ女性が駆け寄ってきて――ためらいもなく五条に抱きついた。


淡い栗色の髪が揺れ、頬にかかるたびにふわりと甘い香りがする。
笑った目元がやさしく、思わず見とれてしまうような人だった。


驚きに目を瞬かせるの前で、五条は短く名を呼ぶ。



「……深雪?」

「久しぶり。……会いたかった」



深雪は笑みを浮かべたまま、さらに五条に腕を回す。
だが、五条はほんの少し眉をひそめ、低く言った。



「僕、忙しいんだから。離れた、離れた」

「ひどーい、久しぶりの再会なのに。じゃあ、術式解いてくれたら離れてあげる」


(……あれ? さっきまで解いてたのに。いつの間に?)


二人のやり取りを横で聞きながら、の胸に小さな疑問が浮かぶ。


深雪はようやく五条から離れ、ふっと視線をへ向けた。



「あ、この子が……噂の生徒さん?」



そして、柔らかな笑みを浮かべる。



「はじめまして。悟の婚約者、日向深雪です」


(……婚、約、者……?)


頭の奥で、その三文字が何度も反響する。
指先が冷えていくのを、はどうすることもできなかった。



「まだそれ言ってんの」



五条が短く息を吐き、呆れたように眉を下げた。



「子供の頃に親同士が勝手に決めただけでしょ。もうとっくに白紙」



そう言いながら、ちらりとの方へ視線を向ける。



「深雪は僕の幼馴染でね」

「日向家は――まぁ、簡単に言うと五条家の分家のひとつ、かな」

「えー? 私は今でも悟と結婚したいけどな」



小首を傾げて、子どもみたいな笑みを浮かべる深雪。



「……はぁ。僕はやだけど。昔からしつこいよね、深雪は」

「うん、悟も昔からそっけないよね」



やり取りは軽やかで、言葉の端々に遠慮のない距離感がにじんでいる。


気心の知れた幼馴染――まさにその典型だ。


(……深雪さんと先生、仲良さそう)


胸の奥が、不意に小さくざわついた。
けれど、その波紋が広がる前に、は思考を押しとどめるように視線を落とした。
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