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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


夕暮れの光が、訓練場の板張りを金色に染めていた。
天窓から差す橙はもう端にわずかに残り、天井の梁に細長い影を落としている。
板の隙間には昼間の熱がまだ残り、じんわりと足裏を温めていた。


は胸の前でそっと手のひらを合わせ、深く息を吸い込む。
――もっと深く。
けれど、指先に集まりかけた光は、またもや儚くほどけて、空気の中に溶けた。


かすかな風が、額の汗を冷やしていく。
小さく息を吐くと、肩が重く沈んだ。



「……また……」



その呟きは、床に吸われて消えた。


壁際で腕を組んでいた五条が、目線だけを彼女に寄越す。



「やっぱりさ――何か発動条件があると思うんだよね」

「……条件、ですか?」



は額の汗を袖で拭いながら、考え込むように視線を落とした。



「……命の危険を感じた時、とか?」

「まぁ、定番だね」



五条は背を壁から離し、歩きながらわざとらしく首を傾げた。



「とりあえず、――僕の術式、一回真正面から受けてみる?」



思わず顔を上げる。
そのサングラス越しの青い瞳は、冗談とも本気ともつかない光を宿していた。



「……それ、発動する前に本当に死んじゃいそうですけど」

「うーん、名案だと思ったんだけどなぁ」



五条は心底残念そうに眉を下げ、わざとらしく肩を落とす。
その様子を見たは、苦笑するしかなかった。


(……マジか、この人)


小さく息をついた瞬間、ふと脳裏に別の映像がよぎった。



「……そういえば」



は視線を少し遠くに向ける。



「夢で……悠蓮が出てきたとき、草原に白い花が一面に咲いていて」

「花?」

五条が片眉を上げる。



「じゃあ、次は花束でも持ってきてみようか。目覚めるかもよ?」

「……それ、ちょっと滑稽ですね」



口元がわずかに緩む。


だが、笑みはすぐに消えた。
は目を伏せ、そっと両手を見つめる。
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