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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


蝉の声が頭上でうるさいほど鳴いていた、学生時代の昼下がり。
中庭のベンチでアイスを食べながら、硝子は何気なく呟いた。



「五条は、恋愛なんて一生無理だろ」



隣の夏油はくくっと笑って、棒アイスを軽く回しながら答える。



「はは、だろうね。悟は恋愛観バグってるからな」



その口元が、少しだけ柔らかくなる。



「でも……悟に本当に好きな人ができたら、応援してあげようよ、硝子」

「多分、告白とかもしたことないから……教えてあげないと」

「えー、めんどくさ。夏油、一人でやりなよ」

「でも、あの悟が好きになる子、どんな子か硝子だって気になるだろ?」

「……まぁ、それはそうだけど」



夏油は空を見上げ、ゆっくりと目を細めた。



「多分、そんな日が来るのなんて一生に一度じゃないかな。だから……うまくいってほしいからね」



そう言って笑った夏油の横顔が、今も胸に残っている。






――そして、現在。


硝子は横を歩く五条をちらりと見やり、心の中で小さく呟いた。


(……夏油。あんたの言った通りだよ。こいつ、やっぱり何もわかってないわ)


大きくため息をつき、口を開く。



「五条、女はな……男と違って、まずは言葉なんだよ。あんたはそれを一番軽く扱うタイプだから、余計にちゃんとしな」



五条は、ポケットに手を突っ込んだまま、呟くように言った。



「でもさぁ、言葉っている?」



五条は肩をすくめて、真面目なのかふざけてるのかわからない声で続ける。



「“目は口ほどに物を言う”って言うじゃん。キスだって同じでしょ。気持ちがあれば、通じるし、わかるし――それでよくない?」

「……だから、それじゃダメだって言ってんの」



硝子の声には、少し苛立ちが混じっていた。



「“気持ちがあれば伝わる”って言葉、便利だけど――逃げなんだよ、それは」



五条は口をつぐむ。珍しく、言い返さなかった。


硝子は続ける。



「ちゃんと伝えなきゃ、いつか大事なもん、見失うよ」



五条はしばらく黙って歩き――ぽつりと呟いた。



「……僕、告白って、今までしたことないんだよね」

「だろうな」



硝子は即答した。
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