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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


「……あんたが攫われたって聞いたときさ――先生、すごい顔してた」

「え?」

「すごい剣幕っていうか……殺気。あんなの、初めて見た」

「……そう、なんだ」



胸の奥がまたわずかに熱を帯びる。
自分のために、先生が――。
そう思っただけで、また小さな灯りが心にともった気がした。


そのまま二人は部屋の前で別れた。




部屋に入ると、静けさが押し寄せる。
ベッドに腰を下ろし、肩にかけていた五条の制服の上着をそっと脱ぐ。
布の重みと、指先に残る温もり。
離そうとしても、なぜか手が止まる。


気づけば、その上着に顔をうずめていた。
石けんの清潔な香りの奥に、ふっと混じる彼だけの匂い――
抱きしめられたときも、キスされたときも、胸を占領してきたあの感覚。


まるで今、すぐそこにいるような錯覚に陥る。


瞼を閉じた瞬間、硝子の声が脳裏に浮かんだ。


『どうでもいいやつに、あいつはキスしないと思うけど』


すぐさま、野薔薇の言葉が重なる。


『……あんたが攫われたって聞いたときさ――先生、すごい顔してた』


その二つの声が、夜の静寂に溶けながら胸の奥で何度も反響する。



――好きって、言ってもいいのかな。



その問いは、夜気の中でほどけずに胸に沈む。
答えを探すように、上着の生地を指先でなぞった。


触れた場所から、じんわりと温もりが広がっていく。
まるでそのぬくもりが、迷う心をやわらかく包み込むようで――
はそっと目を閉じた。


静かな鼓動だけが、部屋の中に響いていた。
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