第2章 “ちゃんと”した子
「ああいう子なら侑も何も言わんとちゃうかな」
「ど…うですかね」
「ほんまにしっかりした子やわ」
次々はっきりと紡がれる北さんの欲望。
いつも見ている北さんの印象とあまりにも違いすぎて、やっぱり俺の聞き間違いやろか、いやもしかしたらこの人ほんまに北さんやないとか……と変に妄想が膨らむし、微妙な相槌しかできない。
俺だけじゃない、周辺にいる部員も目が点になっている。
でも。
「引き抜き…あかんか」
ピーッ!と女バレのいる方向から響いた笛の音と同時に呟いた北さんの声は、きっと俺にしか届いていなかったと思う。
結局そのあと、最後まであの子は動き続けた。
時おりチームメイトらに呼ばれて一緒に駄弁っている様子も見えたけど、それ以外は基本、体のどこかしらは動いていた。
体育館を出るとき以外はバインダーやノートを手放さなかったし、汗で滑りやすくなったボールを自ら拾ってタオルで拭いていたし。
部員のテーピングやら軽いマッサージやら、手が空けば審判も。
──なんでも、テキパキと仕事をする子。
誰が見てもそう印象づけられるような子だった。
マネージャーのいない男バレでは日替わりで役割分担をしていることもあって、基本的にマネージャーがやるだろう仕事内容は覚えている。それをほぼ一人で淡々とこなすあの子の姿はたしかに目を奪われたし、あの子をよく知りもしないのに尊敬も芽生えてしまった。
それほどのマネージャーだから、こそ。
北さんの目は終始、輝きっぱなしだった──……
「…って感じで、北さんはほんまに幸村さんのこと欲しがっとるよ」
「そんなに見られてたの私?え、恥ずかしすぎるんだけど」
自信ありげに語り終えた銀島くんの笑顔に、私は血の気がサッと引いていく。
主将さんだけじゃない、銀島くんや他の部員にまでずっと見られていたということは、つまり……
「…ちょっと待って、私変な動きしてなかった?」
「なーんも!ひとつも無かったわ、むしろ無さすぎて異様やったで。あんなひっきりなしに動いて、辛くないんか?」
「別に無理してるわけじゃないんだけどね。なんか体が動いちゃうんだよ」
一挙手一投足、私はあの日監視されていたということか?
コワ、え〜転校生ってそんな目立つのかな?目立つか。昨年度の中にいない顔が増えるんだもんね。