第2章 “ちゃんと”した子
男女バレー部員の熱気で暑苦しい体育館に、すっと通るような声が響いた。
と思ったら、「立華ちゃんありがとお!今日ほんまに暑いもんな〜、せやからちょうどええよ!」とキャッキャ楽しそうな女子たちの声も聞こえてきて。
それがたぶん、最初だった。
その数分後。
「昨日使ったビブスとタオル洗いたいので、ちょっと抜けますね」
「おっけー! 手伝おっか?」
「いえ、洗濯機まわすだけなので大丈夫ですよ。ありがとうございます」
その後しばらくしてから。
「そろそろ洗濯おわる頃なんで、干してきますね」
「いってらっしゃいりっちゃ〜ん」
洗濯場から体育館に戻ってきた後。
「タオルの替え持ってきました、取り替えたい人言ってください」
「あ、私取り替えたい!ほんまにありがとう立華ちゃん、いつも助かるわぁ」
「いえ、清潔を保つのは体調管理にも繋がるので」
「んも〜優しすぎる!かわええ!ちゅーしたろ!」
「ふふっ先輩の方が可愛いですよ、あとちゅーは普通に嫌です」
……え、めっちゃ働いとるやんあの子。
立ち止まった瞬間あるんかってくらい動きっぱなしで、いつ休んどるかもわからん。
止まったら死んでまうマグロか??
過重労働にならないだろうか、でもあの子の表情はまったく辛そうじゃないしむしろ楽しんでいるようにも見える。
しかも女バレ部員みんなに好かれているのだろう、キャッキャうふふと朗らかな会話と笑い声が絶えない。
なんとも幸せそうな光景。
そうかあそこがエデンか。
「あの子ええなぁ」
「……え」
ふと、よく通る声が聞こえてきて背すじが伸びる。
思い当たる人物と放たれた言葉の不一致に思わず振り返れば、顎に手を当てなにかを考えるように一点を見つめている紛うことなき北さんがいた。
…き、聞き間違いやろか。
「うちにも欲しいな、あの子みたいなちゃんとしたマネージャー」
「な、銀もそう思わん?」と冗談を言っているようにはまったく見えない至極まじめな表情で俺に同意を求める我ら男バレの主将、北さん。
聞き間違いじゃなかった。
この人、あの子を欲しいって言った。
こんなこと言う人じゃないと思ってたのに……え、待って?
この人ほんまに北さんか???