第2章 “ちゃんと”した子
けど現実はちょっと残酷だ。
最初っから最後まで女バレと同じ体育館の中にいたかったのに、北さんがロードワークに行くなんて言い出して。
過去一、嫌なロードワークだった。
体育館に戻った頃には、女バレは既にウォーミングアップを終えていて、打ち込みを始めていた。
ひっきりなしに流れ落ちてくる汗をタオルで拭い、ドリンクで水分補給しながらも目線は女バレの方向。我に返ったけどそれは俺だけじゃなかったからほっと一安心。
男子の熱気で体育館が暑くて、惜しいけどちょっと外の空気を吸おうと外へ出た。
でも暑さは変わらなくて、まだ夏やないのになんでこんな暑いんやろ、あ〜このあと雨降りそうな雲やな〜って空を見上げて、入口の階段に腰掛けたら。
視界の端っこから、ドリンクの籠を持った女子が歩いてきた。
………も、もしや!?
自分の目がかっ開いたのがわかった。
ウォーミングアップを終えた女バレ部員より汗をかいてないし、何よりドリンクを持っている。若干重そうだから中身が入っているのだろう。
間違いない、きっとあの子が噂の転校生!
そんで女バレのマネージャー!
やっと拝めた!好みは別れるかもやけど普通にかわええ子やん!
さらに汗が溢れだす。
あかん、匂い大丈夫やろか!?って気にし出すけど、気づけばその子は目の前を通り過ぎようとしていて。
「お疲れ様でーす」
「あ、う、っス!」
……そこはお疲れ様ですって返さなあかんやろアホか俺!!
挨拶とはいえ、急に声をかけられたもんだから動揺しまくって変な声しか出なかった。
恥ずか死ねる。今なら5秒くらいで目の前に自分の墓掘れるかもしれん。
噂の転校生との初対面は俺にとって残念な結果に終わり、男バレの方も本格的に部活が始まった。
何度もちらちら女子バレー部の方に気が散って目が行って仕方ない部活中、いつにも増して北さんの圧と視線が痛いな怖いなってときどき背筋が凍りそうだった。
男女別とはいえ部活内容はそれほど相違ない。けどやっぱ女子とは偉大である。マネージャーもいるし。
でも部活は部活。
インターハイに向けてしっかり練習せな!となんとか浮ついた身に気合いを入れ直して、ミニ試合をひとつ終えたときだった。
「今日ちょっと暑いので、ドリンク濃いめにしました。甘すぎたら言ってください、水足してきます」
