第2章 副隊長、触らないでください
彼が私から離れたので耳から手を外し顔を上げてみると、口元を手で隠して私から視線を外していた。
え、顔真っ赤…耳まで…。
本当に私のこと好きなの…?
「副隊長…?」
「あかんっ!待って…ほんまにやばい…好きな子に名前で呼ばれるってこんなやばいんか?……童貞みたいやん…。」
勝手に彼に手が伸びてそれを見た彼は触るなと言うように、屈んで頭を抱えた。
嘘…本当に…?
じゃあなんで、あの時…他の人としてたの?
誰かとしていたことを思い出し、サーっと火照った身体が冷えていく。
それ、演技?
演技だとしたら相当すごいけど…。
彼に背を向けて作業に戻る。
「なぁ、なんで僕の気持ちに答えてくれんの?」
またくっつかれ肩を抱かれる。
もう、本当にやめて欲しい。
答えてないのが答えなんじゃないの?
「もうやめて頂けませんか?副隊長の戯言には付き合ってられません。」
「は?なに言うとんの?さっきまであんなしおらしかったやないか…。」
もう彼のことは無視しよう、作業が進まない。
その後何度か話しかけられたが無視をしていると彼はいなくなった。
もし、苗字で呼ばれたら答えるつもりではあった。
でも甘ったるい声で名前を呼ばれていたから答えなかった。
最後に彼はもうええと呟いていなくなったのだ。
いつも私に向けてくれている声ではなかった。
もう揶揄って来ないだろうか、それならばそれでいい。
思考を乱される心配もないから。
なのになんでこんな視界が歪むんだろう…これじゃあ作業出来ない…。
すぐに片付けて廊下を走った。
辿り着いた先で見たものに身体が氷のように冷えて固まった。
「夏目、なんや。邪魔せんでくれん?」
「あ…や……すみません…。」
すぐに扉を閉めて部屋を離れる。
さっきの態度を謝ろうと思ったのに……副隊長は、他の女性隊員を膝に抱き服の中に手を入れていた。
ほら、やっぱり…私のこと揶揄ってたんじゃん。
彼の気持ちを信じようと思ったのに…。
私が遅かったからいけないの?それとも元々、本当に揶揄ってただけなの?何年も?
家に戻りベッドに沈み込む。
何もする気が起きない、このまま寝よう。