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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第6章 穢れた血、幽かな声



窓の外には、まだ朝の霞がうっすらと残っていて、小鳥たちがチュンチュンと鳴いている。


――こんな静かな朝は久しぶりかもしれない。



「ふあぁ……もう、何も起きないでくださいね……」



ふとんの中で身を丸めたまま、チユは小さくつぶやいた。
ようやく1週間分の緊張がほどけて、羽の奥の芯まで、ふわりと温まるような感じがした。


が、そんな穏やかな朝は、長くは続かなかった。



「チユ!起きなさい!朝食食べ逃すわよ!」



扉の向こうから、ハーマイオニーのきっぱりした声が響く。



「週末くらい、寝かせてよ〜……」

「だめよ。生活リズムが乱れるでしょ」


そう言いながら、ハーマイオニーは遠慮なく扉を開け、チユの布団をぺらりとめくる。



「わ、わかったから!せめて引きずらないで……!」


そのままの勢いで寮を引っ張り出され、チユはふらふらと談話室に降りてきた。
ソファの脇には、既にロンが腰かけている。



「おはよう、ロン。ハリーは?」


「クィディッチの早朝練習だってさ。オリバー・ウッドが張り切っちゃってるみたいで」


「早朝に…?」


せっかくの週末だというのに――少し可哀想だと感じた。



「朝ごはん持って様子を見に行かない?」と、ハーマイオニーが提案する。



チユは小さくうなずいた――本当はベッドに戻りたい気持ちでいっぱいだったが、ハリーが寒空の中で頑張っているなら、見に行くだけでも力になれるかもしれない、と思った。


競技場の芝生には、まだ名残の霧が漂っていたが、太陽はしっかりと空に昇っていた。


ピッチを歩きながら、チユは空を見上げる。


「いた、ハリー!」


ハリーは箒にまたがり、ゆっくりと宙に浮かんでいた。
スタンドに上がると、ロンがあくび混じりに言った。



「まだ終わってないのかい?」


「まだ始まってもいないんだよ。ウッドが新しい動きを教えてくれてたんだ」



包みの中から、ハーマイオニーがトーストを取り出すと、ハリーは空からそれを見て、うらやましそうな顔をした。


やがて、箒にまたがり、ハリーは芝生を蹴って空へと舞い上がった。



「うわ…飛んでる……」
チユは、ほんの少し羨ましそうに呟いた。


でも、同時に羽の気配を意識して、そっとマントの裾を引き寄せる。
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