第6章 穢れた血、幽かな声
窓の外には、まだ朝の霞がうっすらと残っていて、小鳥たちがチュンチュンと鳴いている。
――こんな静かな朝は久しぶりかもしれない。
「ふあぁ……もう、何も起きないでくださいね……」
ふとんの中で身を丸めたまま、チユは小さくつぶやいた。
ようやく1週間分の緊張がほどけて、羽の奥の芯まで、ふわりと温まるような感じがした。
が、そんな穏やかな朝は、長くは続かなかった。
「チユ!起きなさい!朝食食べ逃すわよ!」
扉の向こうから、ハーマイオニーのきっぱりした声が響く。
「週末くらい、寝かせてよ〜……」
「だめよ。生活リズムが乱れるでしょ」
そう言いながら、ハーマイオニーは遠慮なく扉を開け、チユの布団をぺらりとめくる。
「わ、わかったから!せめて引きずらないで……!」
そのままの勢いで寮を引っ張り出され、チユはふらふらと談話室に降りてきた。
ソファの脇には、既にロンが腰かけている。
「おはよう、ロン。ハリーは?」
「クィディッチの早朝練習だってさ。オリバー・ウッドが張り切っちゃってるみたいで」
「早朝に…?」
せっかくの週末だというのに――少し可哀想だと感じた。
「朝ごはん持って様子を見に行かない?」と、ハーマイオニーが提案する。
チユは小さくうなずいた――本当はベッドに戻りたい気持ちでいっぱいだったが、ハリーが寒空の中で頑張っているなら、見に行くだけでも力になれるかもしれない、と思った。
競技場の芝生には、まだ名残の霧が漂っていたが、太陽はしっかりと空に昇っていた。
ピッチを歩きながら、チユは空を見上げる。
「いた、ハリー!」
ハリーは箒にまたがり、ゆっくりと宙に浮かんでいた。
スタンドに上がると、ロンがあくび混じりに言った。
「まだ終わってないのかい?」
「まだ始まってもいないんだよ。ウッドが新しい動きを教えてくれてたんだ」
包みの中から、ハーマイオニーがトーストを取り出すと、ハリーは空からそれを見て、うらやましそうな顔をした。
やがて、箒にまたがり、ハリーは芝生を蹴って空へと舞い上がった。
「うわ…飛んでる……」
チユは、ほんの少し羨ましそうに呟いた。
でも、同時に羽の気配を意識して、そっとマントの裾を引き寄せる。