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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第5章 ギルデロイ・ロックハート



「ふう……終わった……ね」


チユは、肩に青インクをべったりつけたまま、腰に手を当てて息をついているとロンが笑いながら言った。



「チユ、ロックハートより目立ってたよ」


「そんなの全然うれしくない…そういえばロックハート先生は……?」



教壇の前は、もぬけの殻。



「逃げたんじゃん」とロンがぼやいた。


「私たちに、体験学習をさせたかっただけよ。本読んだでしょ? あんなにたくさんの偉業をこなしてきた人が……きっと今回は、少し予定が狂っただけよ」


「ご本人は、“やった”とおっしゃってますけどね」



ロンは片手でローブの裾を引っ張りながらぼそりとつぶやいた。


そのやりとりを聞きながら、チユはしばらく床に座りこんで、肩のインク染みを気にしていたが、ふいに顔を上げた。



「……全部うそ、なんじゃない?」



その声は小さく、でもはっきりしていた。
ハーマイオニーが手を止めて、きょとんと彼女を見る。



「ロックハート先生、あのかごを開けるとき、震えてたよ」


「……チユ」ハリーが振り返る。



「多分……誰かのすごい話を、自分の話みたいにしてるだけじゃないかなって。あくまで多分……だけどね」




そう言ってチユは、床にぺたんと座り込んだまま、自分の肩を見てくしゃっと笑った。



「はぁ……ローブに青のインクが……。これ、レイブンクロー生に間違われちゃうかも」


「それは心配ないよ」と、ロンがすかさず返す。「チユの学力じゃ、レイブンクローの鷲の扉、絶対開かないから」


「ひどい!」


「だってさ、あそこの寮は質問に答えないと入れないんだぞ。“知識こそ力”ってやつ。チユが夜に扉の前で“うーん”って悩んでそうな姿、簡単に想像つくもん」


「それはちょっと想像しないでほしいけど……」



「それにしても、この肩の染みだけは、本当に“体験学習”だね。忘れないと思う、今日の授業」




ハリーとロンが思わず吹き出した。



そんな冗談を言い合いながらも、3人の顔には、チユの見抜いた“違和感”がじわりと残っていた。

ハーマイオニーだけが、少しだけ難しい顔をして、静かにかごを見下ろしていた。
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