第5章 ギルデロイ・ロックハート
「ひゃっ……!」
チユは反射的に机の下に潜り込んだが、すぐに「待って、こんなとこにいちゃだめだ……」と這い出てきた。
ピクシーのがネビルのローブのフードをつかみ、彼を宙に吊り上げ始めたのが見えたのだ。
「ね、ネビル、ちょっと待っててね!」
何が「待ってて」なのか自分でもわからなかったが、チユは勢いよく立ち上がると、杖を握ってネビルの方へと駆け出した。
「お、おりて!ネビルを返して――」
その瞬間、ピクシーの1匹がチユの髪にしがみついた。
「やだ!ちょっと、だめ、そこは引っ張っちゃ……!」
ぐしゃぐしゃになった髪に片手を取られながらも、チユは半泣きで杖を振り上げる。
「インモビラス!!」
彼女の声は柔らかく、けれどしっかりと響いた。
放たれた呪文は、ネビルを吊り上げていたピクシーたちの動きをぴたりと止めた。
「大丈夫?」
ネビルはおびえたままうなずく。
「ありがとう、すごいよチユ……」
ちょっと誇らしげに胸を張ったその瞬間、チユの頭に何かが落ちてきた。
「――わっ!?」
ピクシーの1匹が、どこからかインク瓶を落としたのだ。
チユのローブの肩に真っ青なシミが広がっていく。
「う、うわ……なんでこうなるの……!」
せっかくかっこよく決めたはずなのに。
ちょっと涙目になりながらも、チユは気を取り直して再び杖を構える。
今度は教室の中に逃げまどうピクシーたちに向かって、次々と的確に呪文を放ち始めた。
「ペトリフィカス・トタルス!インモビラス!ステューピファイ!」
チユはまるで踊るように杖を振り回す、けどその表情は真剣で、時折髪をぐしゃっと撫で付けながら、ちょっと抜けた顔で「もう!」と叫んだりもする。
その姿を、ハリーとロンは呆気にとられて見ていた。
「あんなに真剣なとこ初めてみた」とロンがぽつり。
「うん……でも、なんか…子供っぽい…」とハリーがぼそっと返した。
やがてハーマイオニーの援護も加わり、残りのピクシーたちもすべて静かになった。
教室はぐちゃぐちゃ。あちこちにインク、破れた教科書、そして天井からぶら下がったネビルのローブが風にゆれていた。