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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第5章 ギルデロイ・ロックハート



「ひゃっ……!」


チユは反射的に机の下に潜り込んだが、すぐに「待って、こんなとこにいちゃだめだ……」と這い出てきた。

ピクシーのがネビルのローブのフードをつかみ、彼を宙に吊り上げ始めたのが見えたのだ。


「ね、ネビル、ちょっと待っててね!」


何が「待ってて」なのか自分でもわからなかったが、チユは勢いよく立ち上がると、杖を握ってネビルの方へと駆け出した。


「お、おりて!ネビルを返して――」


その瞬間、ピクシーの1匹がチユの髪にしがみついた。


「やだ!ちょっと、だめ、そこは引っ張っちゃ……!」

ぐしゃぐしゃになった髪に片手を取られながらも、チユは半泣きで杖を振り上げる。

「インモビラス!!」

彼女の声は柔らかく、けれどしっかりと響いた。
放たれた呪文は、ネビルを吊り上げていたピクシーたちの動きをぴたりと止めた。

「大丈夫?」

ネビルはおびえたままうなずく。

「ありがとう、すごいよチユ……」


ちょっと誇らしげに胸を張ったその瞬間、チユの頭に何かが落ちてきた。


「――わっ!?」


ピクシーの1匹が、どこからかインク瓶を落としたのだ。
チユのローブの肩に真っ青なシミが広がっていく。


「う、うわ……なんでこうなるの……!」


せっかくかっこよく決めたはずなのに。
ちょっと涙目になりながらも、チユは気を取り直して再び杖を構える。


今度は教室の中に逃げまどうピクシーたちに向かって、次々と的確に呪文を放ち始めた。


「ペトリフィカス・トタルス!インモビラス!ステューピファイ!」


チユはまるで踊るように杖を振り回す、けどその表情は真剣で、時折髪をぐしゃっと撫で付けながら、ちょっと抜けた顔で「もう!」と叫んだりもする。


その姿を、ハリーとロンは呆気にとられて見ていた。


「あんなに真剣なとこ初めてみた」とロンがぽつり。

「うん……でも、なんか…子供っぽい…」とハリーがぼそっと返した。


やがてハーマイオニーの援護も加わり、残りのピクシーたちもすべて静かになった。

教室はぐちゃぐちゃ。あちこちにインク、破れた教科書、そして天井からぶら下がったネビルのローブが風にゆれていた。
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