第5章 ギルデロイ・ロックハート
「もっとも、私が皆さんに語ろうとしているのは、そういった華やかな話ではありませんよ。例えば――バンドンの泣き妖怪バンシーを、スマイルで撃退した話とか!」
ロックハートは、期待を込めてクラスの反応を待つ。けれど、ほんの数人が曖昧に笑っただけで、教室は妙な静けさに包まれた。
チユは小さくため息をついた。
今日の授業が終わるころ、ハリーの本の山が崩れずに済んでいることを、心の中でそっと祈った。
「全員が私の本を全巻そろえたようだね。たいへんよろしい」
ロックハートが得意げにクラスを見渡しながら言った。
彼の本はどれもこれも、ページのすき間から香水のような匂いが漂ってくる気がして、正直言って、あまり長く開いていたくなかった。
「今日は最初にちょっとミニテストをやろうと思います、心配ご無用!君たちがどのくらい私の本を読んでいるか、どのくらい覚えているかをチェックするだけですからね!」
チユは、ハリーの顔が露骨にしぼむのを横目に見た。
心配ご無用って言うけど、それはロックハート自身だけの話では――と、彼女はローブの袖の中で羽根ペンを握りなおす。
やがて、生徒1人1人の机に、ミニテストの用紙が配られた。
半用紙には、ロックハートの顔写真が隅に印刷されていて、にやにやとこちらを見つめている。
チユは思わず「ひゃっ」と小さく声を漏らしそうになった。
「30分です。よーい、はじめ!」
ロックハートが指を鳴らし、カラカラと椅子が軋る音と共に、皆が紙に視線を落とした。
チユも、おそるおそる問題に目を通す。
1. ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?
2. ギルデロイ・ロックハートのひそかな大望は何?
3. 現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が1番偉大だと思うか?
用紙は3ページにもわたり、裏表びっしりとロックハートの“伝説”についての問題が続く。
チユは途中で、ハリーのほうをこっそり覗き込んだ。彼もペンを握ったまま固まっているようだった。
隣でロンが「これ、悪い夢じゃないよな」と呟いた声が聞こえた。
そして、極めつけは最後の問題だった。
54. ギルデロイ・ロックハートの誕生日はいつで、理想的な贈り物は何?
「このテスト、1番難しいのは“笑わないで書ききること”だと思うの…」
