第5章 ギルデロイ・ロックハート
やがて教室の前まで来て、ロックハートはようやくハリーを解放した。
ハリーとチユはそのまま、1番後ろの席へ向かう。
そして静かに腰を下ろし、自分の前にロックハートの本を――7冊、まるで盾のように積み上げた。
ロックハートの“本物”を見たくない気持ち。
きっと、ハリーのなかにあるわだかまりを隠すための、唯一の防壁だったのだと思う。
やがて、教室の入り口からドタバタと足音が近づき、クラスメートたちがぞろぞろと入ってきた。ロンとハーマイオニーが、それぞれチユとハリーの両脇に腰を下ろす。
「顔で目玉焼きができそうだったよ」
ロンが冗談めかして言うと、チユはふっと小さく笑った。
隣のハリーも、ほんの少しだけ口角をゆるめた気がした。
「クリービーとジニーが、どうか出会いませんように、って感じだね2人でハリー・ポッター・ファンクラブでも始めたら……」
「やめてくれよ」
ハリーがすぐに言葉をさえぎる。
その表情は冗談を受け流すようなものではなく、どこか切羽詰まったような雰囲気をまとっていた。
「ハリー・ポッター・ファンクラブ」――その言葉だけは、ロックハートに絶対に聞かれたくないものだったのだろう。
タイミングを見計らったように、ロックハートが講壇の前で大きく咳払いをした。
一気に教室の空気が静まりかえる。
ロックハートは得意満面の笑みを浮かべながら、ゆったりと歩いてきて、生徒の間をゆっくりと巡った。
途中で、ネビルの持っていた『トロールとのとろい旅』をひょいと取り上げ、高々と掲げる。
表紙には、例のごとくウィンクしているロックハートの写真。
「――私です」
ロックハートがまた、実際にウィンクしながら言った。
「ギルデロイ・ロックハート。マーリン勲章三等。闇の魔術に対する防衛術連盟・名誉会員。そして――『週刊魔女』チャーミング・スマイル賞を、なんと5年連続受賞しております」
を、なんと五年連続受賞しております」
チユは思わず、隣でロックハートをじっと睨んでいるハリーの様子を横目でうかがった。ハリーの指先は、積み上げた教科書の角を無意識にカリカリと爪で削っていた。