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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第5章 ギルデロイ・ロックハート



30分後。

「はい、ペンを置いてくださーい!」


ロックハートの明るすぎる声が響いた。
ほとんどの問題が埋まっていない答案用紙は、もはや紙ではなく“敗北の証”だった。

彼女の隣では、ロンが首をかしげながら「最後のページ、いったい何語だったんだ……?」とぼやいていた。


ロックハートは満足そうに答案を回収すると、教室の前に立ち、束ねた紙をパラパラとめくりながらコメントを始めた。

「チッチッチー!」

その音と同時に、チユの背筋がすっと冷えた。


「私の好きな色が“ライラック色”だということを、ほとんど誰も覚えていないようだね。『雪男とゆっくり1年』の中で、ちゃんと言っているのにねぇ」


(それが闇の魔術に対する防衛術となんの関係があるのだろうか)


チユはうつむいたまま、答え合わせに付き合わないという意思を背中で表現していた。

「それから、『狼男との大いなる山歩き』を、もう少ししっかり読まなければならない子も何人かいるようだ。第12章ではっきり書いてあります。“理想的な誕生日プレゼントは、魔法界と、魔法界のハーモニーです”!」


(壮大すぎる……っていうか、それ、プレゼントって言うの?)


ロンが「もはや哲学だな」とつぶやくと、チユは思わず肩をふるわせた。


「もちろん、オグデンのオールド・ファイア・ウィスキーの大瓶でも、お断りはいたしませんけどね!」


いたずらっぽくウィンクしたロックハートを見て、前列のシェーマスとディーンが小さく吹き出す。
ロンは、もはやあきれて笑うことすら忘れた顔で、口をぽかんと開けていた。


だが、教室の一角――ハーマイオニーはまるで夢を見ているかのように、頬をほんのり染めてロックハートを見つめていた。

その顔を見て、チユは「えっ」と内心で突っ込まずにいられなかった。
彼女の目は真剣そのもの。

ロックハートの言葉の1つ1つに、まるで魔法をかけられているかのようだった。



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