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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第5章 ギルデロイ・ロックハート




「……ハリー、もう行こ?」


気づけば、チユは2人の間に歩み寄っていた。

袖の端をきゅっと握りしめていたが、その目はまっすぐにハリーを見つめている。


ハリーは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに表情をゆるめて、微笑みながらうなずいた。


マルフォイはつまらなそうに目を細め、皮肉げに言った。


「おやおや、もう1人の救世主の登場だ」


チユの視線が、ぴたりとマルフォイに向く。けれど、その目に怒りはなかった。
ただ、言葉の選び方を冷静に見定めるような静けさがあった。


だが、その時。


「ナメクジでも食らえ、マルフォイ!」


ロンが怒鳴った。背中に張りつめた怒りを乗せて。

クラッブが笑うのをぴたりとやめ、無言で拳をゆっくり撫でさすりはじめた。拳はまるで、トチの実の殻のようにごつごつと節くれだっている。


「言葉に気をつけるんだね、ウィーズリー」
マルフォイが口の端を上げた。「これ以上いざこざを起こしたら、君のママがお迎えに来て、学校から連れて帰るよ」


それだけならまだしも、彼は声色を甲高く変え、芝居がかった調子で言った。


「『今度ちょっとでも規則を破ってごらん〜?』」


――モリーおばさんの物真似だ。からかうにはあまりに無神経な。

スリザリンの5年生が1人吹き出し、それにつられるようにあちこちでくすくすと笑い声が起きる。


「ポッター、ウィーズリーが君のサイン入り写真が欲しいってさ!」
マルフォイは続けざまに毒を吐く。「君の家の家宝よりも、もっと価値があるかもしれないな」


ロンは怒りに顔を真っ赤に染め、鞄の中からスペロテープで継ぎはぎされた杖を勢いよく引き抜いた。


「ロン、だめ!」

ハーマイオニーが『バンパイアとバッチリ船旅』をパチンと閉じ、立ち上がるなり小声で制止した。

チユはすぐにロンの横に立ち、彼の袖をそっと掴んだ。


「こんなのに、付き合う必要ないよ」


小さな声。でも、はっきりと。

ロンはぐっと唇を噛んで、杖を下げる。だが怒りの熱は、まだ手の中に残っていた。
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