第5章 ギルデロイ・ロックハート
昼食を終え、チユは3人と一緒に中庭へ出た。
空は曇っていて、肌寒い風がローブの裾を揺らしていた。
チユはボタンを留め直すと、石段の端に腰を下ろす。
「午後は晴れるかなあ……」とつぶやいたが、答える者はいない。
ハーマイオニーは『バンパイアとバッチリ船旅』を取り出して夢中になって読んでいる。ハリーとロンは少し離れた場所で、クィディッチのことで盛り上がっていた。
チユは、ぼんやりと曇り空を見上げた。
――カシャッ。
小さなシャッター音に、チユは顔を上げた。
「ハリー・ポッター!」
声の主は、薄茶色の髪の少年だった。
ハリーのほうへ駆け寄るようにして近づいてくる。
カメラを胸に下げ、ぎこちないけれど目を輝かせている。
ハリーの前でぴたっと止まり、そわそわと足をもじもじさせながら言った。
「ぼ、ぼく、コリン・クリーヴィーと言います!ハリー・ポッターに会えるなんて夢みたいだよ! もし構わなかったら……一緒に写真、撮ってもいいですか?それでサインも――!」
「あ、うん……」
ハリーは戸惑いながらも、やんわりと笑った。
チユは心配そうに目を細めた。ハリーは優しいから、無理してでも応えようとする――そんなところがある。
と、そのとき。
「やれやれ、またファンクラブか?」
マルフォイだった。
いつの間にか中庭に現れて、皮肉げに笑っている。
「見てろよ、クラッブ、ゴイル。次は蛙チョコレートのカードにポッターの写真が出るかもな――背中にサイン入りで」
クラッブとゴイルが、まぬけな声で笑う。
チユは、すっと立ち上がった。
けれど、ハリーはその場で踏みとどまっていた。
笑わず、でも怒りも見せず、ただ静かにマルフォイを見返している。
「……それで、何の用?」
その声は穏やかだけど、芯があった。
マルフォイはふんと鼻を鳴らす。
「別に。ただ、こんなにチヤホヤされて、さぞ楽しいだろうと思ってさ。――でも、いつまで持つかな。救世主様の人気がさ」
チユは、ぐっと拳を握った。
何も知らないくせに。彼が何を乗り越えてきたか、どれだけのものを背負ってきたか。