第5章 ギルデロイ・ロックハート
「そ、そんなの聞いたことないよ……。杖って、お店で買ったり貰ったりするんじゃ……?」
「普通はそうだろうね。でも、私にはお金もなかったし……ダイアゴン横丁にも行けなかったから。だから、森で拾った木で、自分で作ったの」
チユは、自分の杖にそっと触れた。
今では愛着あるものの、自分でも何故こんなお粗末な物が"杖"として機能しているのか不思議だ。
先を削っただけの、ただの細くて、少し歪んでいる枝だ。でも手に馴染む、大切な相棒。
ハリーとロンは、まるで初めてチユを見た時かのように黙り込んだ。
特にロンは、自分の杖とチユの話を交互に見比べて、なんとも言えない表情を浮かべている。
チユは呆然としている2人を置いて、先に食堂へ向かった。
グリフィンドールの長卓にはすでにたくさんの料理が並んでいた。
チユはオニオンスープをよそい、ロールパンにバターを塗りながら3人の到着を待った。
やがてハリー、ロン、ハーマイオニーがやってきて席につくと、ハーマイオニーがいそいそと何かを取り出して見せてきた。
「見て、これ。さっき変身術で作ったの」
ハーマイオニーの掌の上には、完璧な金のボタンがいくつも並んでいた。
それはまるで、王室の制服についていそうなほど見事な仕上がりだった。
「完璧だね……」とハリーがつぶやいた。
「いいなぁ」チユも思わず本音を漏らす。
自分のは少し歪んでいたし、真ん中の穴がひとつ潰れていた。
だが、ロンの顔はますます曇っていった。
バターを塗っていたパンに、間違えて砂糖壺の中身をぶちまけてしまったくらいには、彼の手元はもうメチャクチャだった。
話題を変えようと、ハリーが声を上げる。
「午後の授業って、なんだったっけ?」
「闇の魔術に対する防衛術よ」とハーマイオニーが即答した。
「ロックハートか……」とチユがそっと言うと、ロンがニヤリとした。
「君の時間割さ、“ロックハート”のところ全部ハートで囲んでるけど、なにこれ?」
ロンがハーマイオニーの時間割をひょいと取って、悪戯っぽく指をさす。
「ちょっと、返して!」
ハーマイオニーは真っ赤になって時間割を引ったくると、口を真一文字に結んだ。
(ふふ、かわいい)