第1章 満ちる月、満ちない気持ち
「ああ、そうだよ。チユ。君は選ばれたんだ」
だが、少女はうつむき、手紙を胸に抱えながら、ぽつりとつぶやいた。
「……無理だよ。私なんか……呪われてるもの」
リーマスの眉がわずかに動いた。
「呪い、って……?」
チユは答えず、ゆっくりと背を向けた。
そして、ためらいがちに、ワンピースの背を下ろした。
その背中には、漆黒の羽が生えていた。
羽は鳥のように整ってもいなければ、妖精のように繊細でも、天使のように神々しくもない。
不規則で、禍々しく、まるで闇そのものを背負っているかのようだった。
リーマスは何も言わなかった。ただ、深く理解するように、彼女の背を見つめた。
(……ああ、そうか。そういうことだったのか)
誰かに恐れられ、拒絶され、そして自らもその“異質さ”を呪いと呼ぶようになった。
彼女は、1人ぼっちで、それでも必死に生きてきたのだ。
リーマスは心の中で小さく呟いた。
――まるで、自分の子どもの頃みたいだな。