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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第1章 満ちる月、満ちない気持ち



あれから、数週間が経った。

各地を回って情報を集め続けたリーマスの耳に、とある老人の言葉が届いた。



「深い森の奥の古びた墓地に、1人の少女が住み着いている」と。


彼はそれを聞いた瞬間、胸がざわついた。その子がチユ・クローバーである気がしてならなかった。


リーマスは老人から詳しい場所を聞き出すと、ためらうことなく姿くらましを使った。


パチンッ。空気がはじける音が静寂を破る。


気づけば彼は、昼間でも薄暗い、不気味なほど静かな森の中に立っていた。
空気は湿っていて、地面には落ち葉と苔が積もっている。
枯れかけた木々が風に軋み、遠くでカラスの声が響いた。



そして、朽ちた墓標が並ぶその墓地の奥――


そこに、1人の少女がいた。


大きな大木にもたれかかるように座っているその姿は、どこか儚く、それでいて、目を奪われるような存在感を放っていた。


真紅と金色、宝石のように鮮やかなオッドアイの瞳。腰まで流れる金色の髪。

その見た目はまるで童話の登場人物のようだが、彼女が身にまとっていたのは、ほつれた古びたワンピースだった。



(……こんな場所で、こんな小さな子が、1人で)



リーマスの胸に、鋭い痛みが走る。
自分が来るのがもっと早ければ、この子はこんな過酷な環境に晒されずに済んだかもしれない。


彼はできる限り穏やかな声で、少女に声をかけた。



「……君は、チユ・クローバーだね?」


少女は、ふいに視線を上げた。
まっすぐにリーマスを見つめるその瞳は、どこか怯えたようで、同時に――諦めの色が混じっていた。


黙って、小さく頷く。


リーマスはゆっくりとローブの中から一通の封筒を取り出し、彼女の前に差し出した。



「私はリーマス・ルーピン。ホグワーツ魔法学校の校長、アルバス・ダンブルドアの使いで来たんだ。……君に、この手紙を届けに」



少女は戸惑いながらも封を開け、中身に目を落とす。

『ホグワーツ魔法学校』の文字を見た瞬間、彼女の瞳が見開かれた。


「……昨日同じ手紙が届いたよ、どうして私が?」


信じられない、といった様子で何度も手紙を読み返すその姿は、まるで夢を見ているようだった。

リーマスはその様子に、自分が11歳のときに手紙を受け取った日のことを思い出していた。あの時も、信じるのに時間がかかった。

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