第5章 ギルデロイ・ロックハート
それからはあまり話すチャンスがなくなった。
耳当てをつけたし、マンドレイクに集中しなければならなかったからだ。
チユは鉢に手を伸ばす。マンドレイクの葉をぐっとつかんで、引き抜こうとした瞬間――
「んぎゃああああああ!」
「ひいっ……!また泣いてる!」
マンドレイクが暴れ出した拍子に、チユの手からすぽっと抜けて、泥だらけの鉢のふちに落ちる。
必死で押さえ込もうとするが、赤ん坊の姿をしたそれは、四肢をばたばたと振り回して言うことを聞いてくれない。
「誰か代わってーーーっ!」
叫んでも、耳当てのせいで誰にも聞こえていない。
ハリーは向こうで太ったマンドレイクを汗だくで押し込んでいて、助けてくれそうにない。
結局チユは、マンドレイクとちっちゃな格闘を繰り広げながら、泥まみれで作業を終えた。
植え替えを終えたときには、手もローブの袖口もどろどろだった。
温室を出る頃には、みんなぐったり。
ハリーもロンも、そしてハーマイオニーさえも、あまり口をきかずに城への道をとぼとぼ歩いていた。
仲間たちと共に、手早く浮泥を洗い流すと、急いで次の授業――変身術の教室へと向かった。
マクゴナガル先生のクラスはいつだって気が抜けないけれど、今日は特にその厳しさが際立っていた。
「昨年度の知識が抜け落ちているようでは、お話になりませんよ、ミスター・ポッター」
冷たい声が教室の空気をきりりと引き締める。チユは思わず背筋を伸ばした。
今日の課題は、「コガネムシをボタンに変える」というもの。
だが、ハリーのコガネムシは何かを察知したかのように、彼の杖先をひらりとかわして、机の上を元気に駆け回っている。
チユはつい口元を押さえて笑いそうになった。
「がんばって!」と小さくエールを送ると、ハリーは苦笑いで肩をすくめた。
一方のロンは、さらに悲惨だった。
彼の杖は、スペロテープで修理されている。
見るからに危なっかしいのだが、当の本人は強引に使い続けている。
というより使うしかないらしい……
「いっちょいくぞ…!」
ロンが気合いを入れた次の瞬間――
バチッ!
激しい音とともに、杖の先端から煙が噴き出し、ロンの顔を濃い紫色のもやが包み込んだ。
教室には、むっとする腐った卵のような匂いが漂い、近くの生徒たちが一斉に顔をしかめた。
