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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第5章 ギルデロイ・ロックハート



土にまみれた手のひらで、ようやくマンドレイクを鉢に押し込んだチユは、深く息を吐いた。

ふわふわの耳当ては少しずれていて、ほっぺたに跡がついている気がする。
恥ずかしいし、暑いし、何より赤ん坊みたいなあの植物が、ずっとギャーギャー騒ぐのが落ち着かない。


そんな時だった。


「やあ、こんにちは」


明るい声がして、振り向いた先には、くるくるした髪のハッフルパフの男の子が立っていた。


(誰だろ……見たことあるけど)


「ジャスティン・フィンチ・フレッチリーです」


男の子はハリーに向かって手を差し出した。
ハリーが戸惑いながらも握手を返す。


「君のことはもちろん知ってますよ、有名なハリー・ポッターだもの。それに、君はハーマイオニー・グレンジャーでしょ? 何をやっても1番って、噂です」


ハーマイオニーはちょっと照れながらもにっこり微笑んで、手を握り返す。


「それから……ロン・ウィーズリー。あの空飛ぶ車、君のだったよね?」


ロンは苦い顔をしたまま、無言でスコップを動かし続けている。
吠えメールの余韻が、まだ心に残っているらしい。



そしてジャスティンの視線が、チユに向いた。


一瞬、胸の奥がきゅっとなる。嫌な予感がした。
ハリーが“英雄”として有名なら、彼女は“悪魔”として有名だからだ。


「それで君は……チユ・クローバーだよね? 賢者の石の事件では大活躍だったとか……救世主って呼ばれてるって聞いたよ」


予想外の返答に、チユは目をぱちぱちとさせた。


「救世主……なんて、大げさだよ」
声が小さくなったのは、たぶん照れと、ほんの少しの戸惑いのせい。


「ロックハートって、本当にすごいですよね」
作業に戻りながら、ジャスティンはご機嫌に話を続けた。


「本読みました? どれも最高です。もし僕が、狼男に追い詰められて電話ボックスに逃げ込むような目にあったら……多分、その場で気絶してますよ。でもロックハートはちがう。クールで――バサッと! 」


「ばさっ、ねえ……」


チユは小声でつぶやいた。想像するとちょっと面白くて、頬が緩む。


「僕、本当はイートン校に行くはずだったんです。母はがっかりしてたけど、ロックハート先生の本を読ませたら、だんだんわかってきたらしい」
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