• テキストサイズ

ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第5章 ギルデロイ・ロックハート



もはや誰も見向きもしないそれを、チユは敗北感とともに拾い上げた。


「最悪だよ……」


絞るような声で呟いたその瞬間、横からロンがにやっと笑って声をかけた。


「それ、チユにすっごく似合いそうだよ。ほら、ほっぺもピンクになってきたし」
からかうような口調だった。


「ロンの方が似合うんじゃない?きっとおばさんに見せたら“ロンちゃん、まあなんてかわいいの!”って褒めてくれるよ」


チユはふんと鼻を鳴らすと、むすっとして耳当てを握りしめた。


「私が合図したら耳当てをつけて、両耳を完全にふさいでください」


スプラウト先生が、さっきまでの騒ぎには見向きもせずに言葉を続ける。


「耳当てを取っても安全になったら、私が親指を上に向けて合図します。それでは、耳当て、つけ!」


チユは観念して、耳当てを両耳にパチンとはめた。
ぴったりと閉じ込められた世界の中で、外の音はすっかり遮断される。
あたたかくて、ふわふわで……ちょっと、恥ずかしい。


スプラウト先生は、ローブの袖をまくり上げると、ふさふさとした植物を1本しっかりと握りしめ、ぐいっと引き抜いた。


土の中から現れたのは、チユが想像していたどんな根っこよりも衝撃的だった。


それは、小さな――赤ん坊だった。


泥だらけで、ひどく醜くて、顔をくしゃくしゃにして、全身で泣きわめいている。
頭からは葉っぱがにょきにょきと生えていて、肌は不気味な色。

まるで夢の中で見る化け物のような姿だった。

ハリーが「うわっ」と声を上げているのが、口の動きでかろうじてわかる。
でも、耳当ての中には何も届かない。


スプラウト先生は、そんな赤ん坊――マンドレイクを何食わぬ顔で持ち上げると、机の下から取り出した大きな鉢に突っ込んだ。

あっという間に、黒く湿った堆肥でずっしりと覆われ、ふさふさの葉だけが土の上に残った。

先生は両手の泥をパンパンと払い、親指をぐっと上に突き出す。
チユは、それを合図に耳当てを外した。



「このマンドレイクはまだ苗ですから、泣き声も命取りではありません」


スプラウト先生は、まるでただのベゴニアでも扱うかのような、淡々とした口ぶりで言った。

けれどチユは、まだどこかぼうっとした顔でマンドレイクの鉢を見つめていた。


あんなのが、あと何本あるのだろうか…


/ 300ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp