第5章 ギルデロイ・ロックハート
「マンドレイク、別名マンドラゴラは強力な回復薬です。姿形を変えられたり、呪いをかけられたりした人を元の姿に戻すのに使われます」
ハーマイオニーの声は、スプラウト先生の代わりに授業を進めそうな勢いだった。
スプラウト先生はにっこりして「よろしい。グリフィンドールに10点」と言った。
(そんなにすらすら言えるなら、もう授業なんて受ける必要なさそう……)
チユは気の抜けたまま考えていた。
「マンドレイクはたいていの解毒剤の主成分になります。しかし、危険な面もあります。誰かその理由が言える人は?」
またしても、ハーマイオニーがぱっと手を挙げた。勢いよく挙げた拍子に、横にいたハリーのメガネがかすかにずれている。
「マンドレイクの泣き声は、それを聞いた者にとって命取りになります」
完璧な答えに、スプラウト先生はうんうんと頷いて言った。
「そのとおり。もう10点あげましょう」
命取りだなんて、そんな植物、ほんとに授業で扱っていいのだろうか……
チユは内心ぞっとしつつも、誰にも気づかれないように、小さく身じろぎした。
「さて、ここにあるマンドレイクはまだ非常に若い」
先生が指差した先には、一列に並んだ木箱。
生徒たちはどっと前に詰め寄るようにして覗き込んだ。
紫がかった緑色の、ふさふさした葉っぱの植物が、きちんと列をなして並んでいる。ざっと見て、100本くらい。
……見た目だけなら、ただのちょっと毛深い草
ハリーの表情にも、似たような困惑が浮かんでいた。
『泣き声』と言われても、想像もつかない。ましてやそれで人が倒れるなんて。
「みんな、耳当てを1つずつ取って」
スプラウト先生の声が響いた瞬間、生徒たちは一斉にベンチへとなだれ込んだ。
その目的はただ1つ――ピンクのふわふわ耳当て以外を選ぶためだ。
(あれだけは絶対やだ……!)
チユもその流れに紛れ、腕を伸ばして黒いレザー調の耳当てを狙った――が、あと数センチのところで先を越され、横からロンの肘が軽くぶつかってくる。
誰かの手が彼女の袖を引っかけ、ぐらりとバランスを崩したその瞬間、彼女の手元に、ふわっふわの、薄い桜色の耳当てがぽとんと落ちてきた。