第5章 ギルデロイ・ロックハート
スプラウト先生の『明らかに不機嫌』なしかめっ面をよそに、ロックハートはにっこり笑ってハリーの肩をそっと掴んだ。
「彼が2、3分遅れてもお気になさいませんね?」
ロックハートがしゃべりながら先生の前でドアをぴしゃっと閉めると、残された生徒たちはぽかんとしてしまう。チユもその1人だった。
「……うわ、なんだよあれ」ロンがぼそり。
「せめて授業が終わってからにすればいいのに」とハーマイオニーが小声でつぶやく。
チユは少し心配だった。
ハリーがああいう『注目』が苦手なのは見ていればすぐにわかる。
人の目が、好奇心だけで向けられると、痛みになる。
それはきっと、ハリーも、そしてゼロも同じだ。
気がかりになりながらも、チユは3号温室の中へと足を踏み入れた。
植物の葉が揺れ、光がこぼれてくる。未知の世界の入口で、彼女の胸はほんの少し高鳴っていた。
しばらくして、ハリーがようやく温室に入ってきた。
少しだけ疲れた顔をしている。
ハリーがハーマイオニーとロンの横に立つのを確認してから、チユはもう1度、ぼんやりと前を見た。
スプラウト先生は、温室の真ん中にどっかりと立ち、机を2つ並べてその上に分厚い板を渡してベンチを作っていた。
そのベンチの上には、色とりどりの耳当てがずらりと整列している。まるで耳当て専門店みたい
(どれもこれも、あんまり可愛くないな……)
チユはそんなことをぼんやり思いながら、欠伸を飲み込んだ。
だ。
「今日はマンドレイクの植え替えをやります。マンドレイクの特徴がわかる人はいますか?」
スプラウト先生の声が響いた瞬間、空気がピンと引き締まる。
すかさずハーマイオニーが、しゃきん、と手を挙げた。
(あ、やっぱり挙げた……)
目をぱちぱちと瞬かせながら、チユはついその横顔を見てしまう。
彼女の瞳はくるくると輝き、まるで教科書のページそのままが頭に刷り込まれてるみたいだった。
その隣で、ロンがちょっと目を細めて苦笑しているのも、いつもの光景。
薬草学。チユは、どうにもこの授業が好きじゃない。
暖かすぎる空気に、湿った土と植物の香り――眠気を誘う要素ばかりで、集中しろというほうが無理な話だった。