第5章 ギルデロイ・ロックハート
温室の前にたどり着いた。
ハーマイオニーが何か話していたが、ふとチユたちに気づいて手を振ってくれる。
ゼロと顔を見合わせて、ふっと笑い合ったあと、チユはみんなの輪の中へ自然と歩を滑り込ませた。
そのとき、芝生の向こうに2つの影が見えた。
1人は小柄で、ずんぐりとした体型の魔女――スプラウト先生だ。
もう1人はというと……なんとも目立つ、トルコ石色のローブをはためかせて、金髪をこれでもかというほど輝かせている、あの人――ギルデロイ・ロックハート。
チユは思わずまぶしそうに目を細めた。
「うっ…なんだか明るすぎて目が痛い……」
先生たちは『暴れ柳』の方から歩いてきていて、スプラウト先生の腕には包帯の束が山ほど抱えられていた。
「やぁ、みなさん!」
ロックハートの声は、風も草も目を伏せたくなるような、完璧すぎる笑顔に包まれていた。
チユは思わずロンと目配せをする、ロンが「目、合わないようにしよう」なんて小声で呟いたのが面白くて、肩が小さく震える。
「スプラウト先生に、『暴れ柳』の正しい治療法をお見せしていましてね。でも、私のほうが先生より薬草学に詳しいなんて、そんな誤解は……困りますよ、ははっ」
「みんな、今日は3号温室へ!」
3号温室――その響きだけで、胸が少しだけ高鳴った。
これまで授業で使っていたのは1号温室だけ。
そこにはよく手入れされたハーブ類や綺麗な花が並んでいたけど、3号温室にはもっと不思議で、もっと危険で、それでいてきっと美しい植物たちが揃っているのだろう。
スプラウト先生が腰のベルトから大きな鍵を外すと、金属が擦れる音が静かな期待を切り開くように響いた。
ガチャリ。
扉が開いた瞬間、むわっと濃厚な香りが鼻先をくすぐった。
天井から垂れ下がる、傘ほどもある巨大な花が揺れ、甘ったるい香りと一緒に、湿った土や、発酵しかけた根っこのような匂い。
「ハリー!君と話したかった――」
明るく響いた声に、振り向いた。
ローブをなびかせながら、ロックハートがすっとハリーに歩み寄る。
まるで舞台の中心に立つ俳優のように、どこを見ても隙がない。