第5章 ギルデロイ・ロックハート
「それに……もし、今はまだ見つからなくても、私がいるよ」
チユはそう言って、足元の小石をぽんと蹴り飛ばした。
彼女は耳まで真っ赤に染め、恥ずかしそうに肩をすくめる。
「一緒に話している間だけでも、ちょっとでも気がまぎれるなら、それでいいんだ」
ゼロはしばらくの沈黙のあと、小さく、けれど確かに笑った。
「……君と話してると、落ち着くよ」
チユは、ぱちくりと瞬きをした。
「え?」
「なんでか、分からないけどさ。……いつも、そうなんだ」
その言葉は、どこか戸惑いを含んでいた。
感情を打ち明け慣れていないゼロの、ぎこちない素直さだった。
チユは、胸の奥がきゅっとなるのを感じた。
「……うれしい」
そう呟くと、両手で自分の袖をぎゅっと握った。
「私も、そうだったの。ゼロと話してると、変なこと言っちゃうし、そわそわするけど……でも、なんだか、心が静かになるの」
「僕たち、気が合うみたいだ」
ゼロが、そう言って笑った。
その笑い方がやけにやさしくて、チユはつられるように笑い返した。
少しの風が、2人の間を通り過ぎる。
沈黙はあったけれど、それは気まずさではなく、心地よさを連れていた。
言葉を交わさなくても、そばにいるだけでいい。そんな空気だった。
やがて温室のガラスが朝日を受けてきらりと輝き、色とりどりの魔法植物が揺れる姿が見えてくる。
温室の前には、すでに何人かの生徒たちが集まり始めていた。
ハリーやロン、ハーマイオニーの姿もそこに混ざっている。
自然と足が緩み、会話も徐々に途切れていく。
まるで、この道だけが2人だけの時間だったかのように、静かに終わりを迎えるようだった。