第5章 ギルデロイ・ロックハート
「ちょっと見ない間に……背、伸びたね」
「えっ、本当に?」
チユは驚いて立ち止まり、ゼロと自分の背を見比べるようにして首を傾げた。
「多分ね。2年生の女子の中じゃ、1番高いんじゃない?」
「ゼロだって伸びたよ。なんか、前よりもっと大人っぽくなった」
「それは……嬉しいのかどうか、微妙だな」
ゼロは少しだけ笑って見せた。
少し間を開けた後、チユがふと声を落とした。
「……満月は大丈夫だった?」
ゼロは少しだけ足を緩め、彼女を横目で見た。
問いかけには、ほんの少しのためらいと、確かな気遣いが込められていた。
「うん。今回は、まあまあだった。外に出ずに済んだし……でも家はどうも居心地が悪くてね」
そう言って見せた微笑は、どこか壊れそうに淡い。
春の陽にきらめく硝子のように、脆く繊細な光を宿していた。
家族とはうまくいっていない――前にそう聞いた。
「家には居場所がないんだ」と、彼は言っていた。
リーマスという大きな存在に支えられてきたチユにとって、想像するだけで胸がしめつけられる。
もし自分が、誰にも頼れない夜を過ごさなければならなかったとしたら。
満月の夜に、1人きりで、すべてを抱え込んでいたのだとしたら。
どれほど心細かったのだろう――。
まるで、昔の自分のようだ。
「……そっか」
そう言ってから、少しだけ間を置いて、チユは言葉を探すように口を開いた。
「私、家ってものが、まだよくわからないんだ」
ゼロがふと視線を動かす。
「産まれた時から孤児院を転々としてて……でもね、大切な人に出会って、少しだけ分かってきた気がするの。安心できる場所とか、心がふっと緩む時間とか、そういうのが“帰る場所”なのかなって」
チユは、少しだけ笑った。
「ゼロにとっては、まだそういう場所が見つかってないのかもしれないけど……でも、ちゃんとあると思うよ。どこかに、ちゃんと、待ってる場所が」
ゼロは黙ったまま、前を見つめていた。
けれどその横顔からは、少しだけ、張り詰めたものがほどけたような気がした。