第5章 ギルデロイ・ロックハート
マクゴナガル先生がグリフィンドールのテーブルを回って、時間割を手渡しはじめた。
チユの手元にも、1枚の羊皮紙が届く。
「ふむふむ……最初は薬草学。ハッフルパフと一緒なんだ……」
そう呟いて紙をたたみ、チユは隣に座るハリーたちを見上げた。
「じゃあ、行こっか」
ハリー、ロン、ハーマイオニーと並んで大広間を出ようとしたそのときだった。
城の前庭を横切る途中、ふと目に飛び込んできたのは、ひときわ目立つ長身の生徒だった。
整った顔立ちに、長い黒髪。
風に揺れる前髪の奥から、鋭い眼差しが一瞬、覗く。
――ゼロ・グレイン。
スリザリンのような雰囲気を纏いながらも、彼はれっきとしたグリフィンドール生だ。
堂々とした立ち姿、春先よりさらに伸びた背は、どこか手が届かないような美しさをまとっていた。
「ごめん、先に行ってて!」
チユはそう言ってハリーたちに手を振ると、弾かれたように駆け出した。
ハリーが何か言いかけたようだったが、彼女の弾むような笑顔に、言葉を飲み込んで苦笑した。
「ありゃ、相当惚れてるな……」ロンが小声で呟いた。
「ゼロ……!」
名前を呼ぶと、ゼロは歩みを止め、ゆっくりとチユの方を振り向いた。
「久しぶり、チユ」
「久しぶり、温室まで一緒に行こうよ」
「いいの?その……ポッターたちとじゃなくて」
「ハリーたちとは、またあとで!」
そう言って笑うチユに、ゼロも口元をわずかに緩めた。
2人は並んで歩き出す。野菜畑の端を抜け、温室のある場所へと向かう細道には、朝の光が穏やかに差し込んでいた。
「昨日、新入生に、スリザリンの寮の場所を聞かれたよ」
ゼロがぽつりと呟いた。
「本当に?」チユは思わず吹き出しそうになった。
「ローブ見てなかったのかな。真面目に『あっちですか?』って聞かれて……こっちは戸惑ったよ」
「ゼロって完全に“スリザリン顔”だもんね」
「それ、褒めてる?」
「んー……うん!」
2人は笑い合いながら、さらに歩を進めた。