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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第1章 満ちる月、満ちない気持ち



孤児院は、鬱蒼と茂る草木に囲まれていた。

建物の窓という窓には格子が取り付けられ、まるで内と外を完全に遮断するような冷たさを感じさせる。


灰色の壁は雨風にさらされて斑になり、どこか無機質で、人の温もりというものがまるで存在しないかのようだった。


リーマスはその前に立ち、深く息を吸ってからチャイムを鳴らした。

やがて、扉がきいと軋みながら開く。


姿を現したのは、真っ黒なワンピースを纏い、雪のように白い髪をぴっちりと後ろで束ねた中年の女性だった。
表情には一切の柔らかさがなく、その立ち姿には規律と冷徹さが滲み出ていた。


「……どなたですか?」



女性の声は鋭く、まるで不審者でも見るような目でリーマスを見つめる。



「私は、リーマス・ルーピンと申します。チユ・クローバーという少女を……引き取りに参りました」



名乗ると、女性はあからさまに顔をしかめた。



「クローバーなら、もうここにはおりません」


「……は?」


リーマスは思わず問い返す。「どういうことですか? どこへ行ったんです?」


「知らないわ。とっくに追い出しましたから」


あまりにも冷淡な言葉だった。

彼女はそれだけ言い捨てると、まるで言葉の続きなど必要ないとでも言うように、無情に扉を閉めた。


ピシャリ、と木の重たい音が辺りに響く。


その後、何度チャイムを押しても扉が開くことはなかった。


リーマスはしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて孤児院の敷地を後にし、町へと向かった。


「幼い女の子を見ませんでしたか?長い金髪の……」


人通りのある道で、通行人1人1人に声をかける。
しかし、チユの容姿も詳しい特徴も知らぬままでは、誰かにたどり着けるはずもなかった。


薄曇りの空がいつの間にか濃くなり、にわか雨が地面を濡らしていく。


少女の姿はどこにも見えなかった。

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