第5章 ギルデロイ・ロックハート
『…車を盗み出すなんて、退校処分になってもあたりまえです。首を洗って待ってらっしゃい。承知しませんからね。車がなくなっているのを見て、私とお父さまがどんな思いだったか、おまえはちょっとでも考えたんですか……』
モリーおばさんの怒声が、大広間中に響き渡る。
それはまるで本物の100倍に増幅されたように感じ、テーブルの上の器や食べ物まで震え、ガチャガチャと揺れた。
声は石の壁に反響し、鼓膜が裂けそうなほどの音が、まるで体の中に直接響くように鳴り響いた。
その時、ふと隣に誰かが座る気配がした。
チユが顔を上げると、そこにはジョージがいた。
彼はニヤリと笑いながら、片手にナメクジゼリーの小さな箱を持っている。
「これ、耳に入れたら少しはマシになるんだぜ」
ジョージが軽く言って、チユにそのゼリーを手渡した。
チユは一瞬、目を丸くした。「え?それ、耳に?」と、驚きつつも、ジョージの無邪気な顔に少しだけ安心感を覚える。
彼はゼリーを手に取って、そのまま耳の穴に入れようとした。
「あぁ、ちょっと待って!」と、チユは慌てて顔を背けるが、ジョージはノリノリで「ほら、痛くないから。試しにやってみて」と言って、無理なくゼリーを耳に押し込む。
チユはしばらく固まっていたが、次第にその冷たいゼリーの感触が不快なほど心地よく、逆に怒声の波に少しだけ耳を塞がれて、気が楽になったような気がした。
『まったく…!昨夜、ダンブルドアからの手紙が来たんですって。お父さまが恥ずかしさのあまり、死んでしまうんじゃないかと心配しましたわ!こんなことをする子に育てた覚えはありません!!』
その瞬間、モリーおばさんの怒声がさらに響き、ジョージも一緒に耳を塞ぎながら「な、マシだろう?」と、笑った。
ロンはまるで縮こまったように椅子に座り、顔が真っ赤になって、テーブルに伏せていた。
『あなたもハリーも…!間違えば死ぬところだったのです!お父さまは役所で尋問を受けましたよ。まったく、みんなお前のせいです!次に少しでも規則を破ったら…私たちがすぐに家に引っ張って帰りますからね!』
ロンが手に持っていた赤い封筒が、ぽとりとテーブルに落ち、次の瞬間、炎のように燃え上がった。
チユは、ただその光景を呆然と見守ることしかできなかった。