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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第5章 ギルデロイ・ロックハート




新学期の朝、チユは目を覚ました時から、どこか重たい空気を感じていた。


始まりは、いつだって少しだけ心を乱すものだ。


特に、今年もまた、彼女の異色の瞳が新入生に恐れられ『悪魔』なんて言われるのではないかと不安になっていた。

今でもその言葉が耳に残っている――何度も言われたことのある言葉。それが彼女の心を締めつける。



(今年もまた……そう呼ばれるんだろうか)



その思いが、チユの胸に重くのしかかっていた。


朝の大広間は、いつもより少し重たい空気に包まれていた。

天井にはどんよりとした灰色の雲が広がり、魔法で映し出された空は、外と同じように憂鬱な色をしている。まるでこの日の気分を代弁しているようだった。


チユはグリフィンドールのテーブルに腰を下ろし、黙ってオートミールの皿を見つめた。
バターのしみたトーストに、香ばしいベーコン、ミルクが入った水差しとフルーツのジャム。


食欲をそそる香りが漂っているのに、新学期が始まる緊張、不安からなかなか手が伸びなかった。

どうしても、昨日までの平穏な日々が遠く感じられ、心の中に不安が広がっていた。


しばらく経つと隣に、ハリーとロンが座った。

どちらも元気がなくて、ロンはまだ寝ぐせが取れていないまま、パンを手にしてはぐったりしている。


「おはよう」


ハーマイオニーが言ったけれど、その声はまるで風に押し流されるように冷たかった。

テーブルに立てかけられた『バンパイアとバッチリ船旅』の背表紙の奥から顔をのぞかせるその目は、じろりと2人を睨んでいるようにも見えた。



(やっぱり、まだ怒ってるんだ)


チユはそっと視線を伏せた。


そりゃあ、あんな派手な登場をすれば、誰だって驚く。

でも――無事だったのだから、それだけで、良かったんじゃないのかな。
なんて考える自分は楽観的過ぎるのだろうか。


「やあ、おはよう!」


ネビルの明るい声が飛んできた。

彼は相変わらず制服のボタンを掛け違え、片方の靴紐がほどけかけていたけれど、その笑顔は晴れ間のようだった。

その笑顔を見た瞬間、チユはふっと心が軽くなるのを感じた。
どこかひどく憂鬱だった朝の気持ちが、ほんの少しだけ救われたような気がした。
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