第4章 欠けたはじまり
しかめ面のパーシーを見つけたロンは、バツが悪そうにうつむきながら言った。
「ベッドに行こう」
声は小さく、居心地の悪さがにじんでいた。
ロンとハリーは肩を並べるようにして男子生徒用の螺旋階段を上がっていく。
「おやすみ」
ハリーがふと振り返り、チユとハーマイオニーにやさしく声をかけた。
険しい表情を崩さないままのハーマイオニーの横で、チユは小さく頷いた。
……なんだか、長い1日だった
ようやく姿を見せたハリーとロン。空飛ぶ車での到着、新聞にまで載った大騒動。
けれど――会えた。ちゃんと、無事だった。
「おやすみなさい、ハーマイオニー」
挨拶をすると、チユは螺旋階段へと歩き出した。
階段を登りきり、最後のドアの前に立つと、小さな銘板にこう書かれていた。
『Chiyu・Clover』
扉を開くと、中から流れてきたのは、あたたかい空気と、どこか懐かしい香りだった。
丸い部屋には、グリフィンドールの赤を基調としたインテリア。
四柱ベッドには深紅のベルベットのカーテンが優雅に垂れ、窓辺には丸い机と、やわらかそうな椅子がひとつ。
棚の上には、リーマスがくれたマフラーが丁寧にたたまれて置かれていた。
トランクはいつのまにか運び込まれており、ベッドの脇にきちんと収まっている。
チユはそっとドアを閉め、部屋の真ん中に立った。
1人だけの静かな空間。
まるで波のようだった今日1日のざわめきが、ようやく遠くへ引いていく。
(またここに帰ってこれた)
誰にも邪魔されない、自分だけの空間。
それなのに、どこかで誰かが見守ってくれているような、不思議な安心感があった。
窓のカーテンをそっとめくると、ホグワーツの高い塔が影を落とし、
その向こうには、澄んだ夜空と星のきらめきがあった。
「……リーマス、私、今年もちゃんと頑張るからね」
小さく呟いた言葉は、誰に届くでもなく、でも確かに心の奥に落ちていった。
ベッドの中に潜り込むと、毛布を肩まで引き寄せ、目を閉じた。
まぶたの裏に浮かんだのは、ハリーたちの笑顔。
そして、フレッドやジョージのはしゃいだ声――
そう思った瞬間、肩のあたりでふわりと、かすかに何かが動いた。
それはまだ誰にも知られていない、小さな羽――
彼女がひそかに抱える、秘密の一部だった。