第4章 欠けたはじまり
晩餐が終わり、大広間のざわめきが少しずつ静かになっていくころ。
チユたちは生徒たちの列に混ざって、グリフィンドール塔へと向かっていた。
長い階段を上ると、懐かしい絵画たちがあちこちから話しかけてくる。
そして、談話室前に差しかかると――
「えーと……」
聞き覚えのある声がした。
「合言葉がわかんないよ……」
ロンの不満げな声も聞こえる。
「ハリー!ロン!」
チユが駆け寄ろうとしたその瞬間、背後から勢いよく、ハーマイオニーが2人に向かって突進するように飛び込んだ。
「やっと見つけた!いったいどこに行ってたの?バカバカしい噂が流れてたのよ、誰かが言ってたわ。あなたたちが空飛ぶ車でホグワーツに来て、退学処分になったって!」
ハリーとロンはぎょっとして顔を見合わせた。
「ああ……退学処分にはならなかったよ」
ハリーが慌てて言うと、
「まさか、本当に空を飛んで来たの……?」
ハーマイオニーの声はまるでマクゴナガル先生のように厳しく、目もつり上がっている。
「お説教はやめてくれよ……」
ロンが疲れきった声で返した。
「とにかく、合言葉教えてくれよ」
「『ニミレミツスイ』よ。でも話をそらさないでよね!」
ハーマイオニーが呆れ顔で扉の前に立ち、肖像画に合言葉を伝えると、肖像画がくるりと開いた。
扉の奥には、暖炉の火が燃える懐かしい談話室の光があった。
チユはようやく心からほっとして、ハリーとロンの顔を見つめた。
「よかった……無事で」
思わず出たその声に、ハリーが少しだけはにかんで笑った。
「心配かけたね」
ジョージが、まるで戦士の帰還を迎えるように、ロンの背中をどんと叩いた。
「おおっと皆さん!グリフィンドール史上最も勇敢な勇者、ロン・ウィーズリーの凱旋です!」
「華麗なる新聞デビューを飾った彼の記念切手は明日から発売!」フレッドが片膝をついて深々と頭を下げながら叫んだ。
「特典で『勇者ロンの涙で濡れたハンカチ』付き!」
「やめてよ……」ロンが顔を真っ赤にしてうめくと、みんなの笑い声が談話室にあふれた。