第4章 欠けたはじまり
「チユ、元気にしてたかい?」
「……うん……でも、リーマスは……」
駆け寄ったチユは、そのまま彼の袖をつかんだ。
細い指先で、傷の1つをなぞろうとして――けれど、途中でやめた。
触れたら、痛いかもしれないから。
「……大丈夫。ちょっと疲れてるだけさ。もう、満月は終わった」
そう言いながら、リーマスはチユの頭をそっとなでた。
その手の温かさに、チユは涙が出そうになったけれど、こらえた。
しばらくして、チユは胸元から小さな包みを取り出した。
「これ、ずっと、渡したくって……」
包み紙はほんの少しくしゃっとしていたけれど、中には色とりどりのチョコレートがぎゅっと詰まっていた。
ダイアゴン横丁の小さな店で、チユがこっそり選んで買ったものだった。
リーマスは包みをそっと受け取り、目を細めた。
「ありがとう、チユ。嬉しいよ。本当に」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。
それからの夏休みの残りの日々、チユはリーマスのそばにいる時間を大切に過ごした。
朝はゆっくり目覚めて、一緒に朝食をとり、天気の良い日は庭で本を読んだり、チユが摘んだ薬草でリーマスの傷に効く薬をこしらえたりもした。
夜になると、2人で夜空を見上げながら、声をひそめていろんな話をした。
その一時が、チユにとっては宝物のようだった。
けど――
別れの日は、確実に、近づいていた。
出発の朝。
チユは早くに目を覚ました、台所では、リーマスがすでにお湯を沸かしている。
朝の光の中で、その後ろ姿が、どこかさびしげに見えた。
「早起きだね」
「うん、なんだか、寝てられなかった」
2人で静かに紅茶を飲んで、窓の外に広がる朝霧を見つめる。
チユはカップを置いて、少し迷ったあと、そっと口を開いた。
「私、ちゃんと……頑張るからね」
リーマスは目を細めて、チユの言葉をゆっくりと噛みしめるように聞いた。
そして、ホグワーツ特急に乗る時刻。
キングズ・クロス駅、9と3/4番線のプラットフォームは、今年も変わらず人でごった返していた。