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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店



「子供たちに、なんてよいお手本を見せてくれたものですこと……公の面前で取っ組み合いだなんて……ギルデロイ・ロックハートがいったいどう思ったか……」

モリーおばさんの言葉に、皆が気まずく顔をそろえてうつむいた。


「あいつ、喜んでたぜ」フレッドが言った。


「店を出るとき、あいつが言ってたこと、聞かなかったの? 『日刊予言者新聞』のやつに、ケンカのことを記事にしてくれないかって頼んでたよ。宣伝になるから、だってさ」


「へ、変なひと……」チユがぽつりとつぶやく。


「でもさ、」ロンが急に口をはさんだ。「あいつら、チユの呪文でコテンパンにしてやればよかったのに!」

「ロン!」モリーおばさんがピシャリと叱った。「学校の外で魔法を使っちゃいけないって、何度言ったらわかるの!」

「……いや、だからさ、“もし使えたら”って話だよ……」ロンは口をとがらせながらも、小声でぶつぶつ言っていた。


なんやかやあって、一行はしょんぼりと『漏れ鍋』の暖炉へと向かった。

煙突飛行粉の順番を待つあいだ、チユは手にした小さな包みをぎゅっと抱きしめていた。
先程、こっそり買った、リーマスへのお土産のチョコレートだった。


「これ、リーマスに帰ったら渡すんだ……」と小さくつぶやいた声を、そばにいたロンはちらりと聞いた。
少し照れくさそうに、「あの人、甘いの好きなんだ」と言った。


グレンジャー一家は、マグルの世界に戻るため、反対方向の扉へと向かった。
チユはハーマイオニーに小さく頭を下げてから、すぐ顔を上げてほほえんだ。


「また、すぐに会えるよね?」


「もちろんよ!」ハーマイオニーが元気に言うと、チユは安心したように頷いた。


アーサーおじさんは、バス停とはどんなふうに使うものなのか、思わず質問しかけたが、モリーおばさんの鋭い視線に気づいてすぐに口をつぐんだ。

ハリーはめがねを外してポケットにしまい、煙突飛行粉をつまむ。


チユはその隣で、じっと暖炉の中の灰を見つめていた。



このまま、リーマスのもとへ帰りたい――そう思ってしまう自分を、チユはそっとなだめた。

「今は“隠れ穴”の方が安全だ」と、彼は穏やかに言った。

あのときの、どこか寂しそうな顔で笑った彼の姿が、ふいに胸によみがえる。


やっぱりこの旅行のやり方は、チユにもまだちょっぴり怖かった。
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