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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店




その瞬間だった。


ジニーの大鍋が宙を舞い、カン、と甲高い音を立てて床に落ちた。
なにが起こったのかわからなかった。視界の端で、アーサーおじさんがルシウスに跳びかかっていた。


「えっ――!」


ドン、と本棚に叩きつけられたマルフォイ氏の背中。
次の瞬間、重たそうな呪文の本が棚から崩れて、ドサドサとみんなの頭に降ってきた。


「チユ、伏せろ!」


誰かの声と同時に、背中に何かが覆いかぶさってきた。
視界の端に、赤い髪が揺れる。


ドサドサドサッ――!


本が落ちてくる音。分厚い背表紙が床に打ち付けられる音。
チユ無意識に目をぎゅっとつぶり、腕で頭を庇った。
だけど、痛みは来なかった。かわりに、あたたかい腕が肩を包んでいた。


「チユ、大丈夫だ、ほら、平気だから」


それはジョージの声だった。
そのすぐ隣では、フレッドが落ちてくる本を手で払いながら、ジニーの前に立ちはだかっていた。


「やっつけろ、パパ!」
フレッドとジョージが叫ぶ。


「アーサー、ダメ! やめて!」


モリーおばさんの悲鳴が響いた。
まるで呪文よりも強く、場の空気を引き裂いていく。

まわりの人たちがざざっと後ずさり、距離を取る。店内の本棚が大きく揺れて、1つ、また1つと倒れていった。

チリの舞う空気。パタパタと落ちてくるページの音。


「お客様、どうか、おやめを、どうか……!」


必死に止めようとする店員の声は、誰の耳にも届いていないようだった。


「ああ、こりゃいかん!」


ごうん、ごうんと床を揺らしながら、何か大きなものが近づいてくる音がした。

振り返ると、そこには本の山をかき分け、かき分け、力強く進んでくるハグリッドの姿があった。


「もう、やめとけ!けんかはよくねえ!」


低く響く声とともに、ハグリッドはたった一息で本棚の間を突っ切ると、アーサーおじさんとルシウスの間に腕を差し込み、あっという間に2人を引き離した。

力強く引き剥がされた2人は、それぞれよろめきながら後退した。

アーサーおじさんの唇からは薄く血がにじみ、ルシウスの目元には『毒キノコ百科』の角が命中したらしく、赤く腫れていた。
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