第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
その声に、ハリーはすぐさま顔を上げる。ドラコ・マルフォイが、いつもの薄ら笑いを浮かべて真正面から立っていた。
「有名人のハリー・ポッター。ちょっと書店に行くだけで、新聞の一面かい?」
「ほっといてよ。ハリーが望んだことじゃないわ!」
思いがけず口を開いたのはジニーだった。
ハリーの前で初めて声を上げた彼女は、ドラコをぴしりとにらみつけている。
「ポッター、ガールフレンドができたじゃないか!」
ねちねちと嫌味を重ねるドラコに、ジニーは顔を真っ赤に染めた。
そのとき、ロックハートの本をひと山ずつ抱えたロンとハーマイオニーが、人混みをかき分けて戻ってきた。
「なんだ、君か」
ロンは靴の底にくっついた何かを見るような目で、ドラコをにらむ。
「ハリーがここにいるのを見て、びっくりしたのか?」
「いやいや、ウィーズリー。君がここにいるのを見てもっと驚いたよ」
マルフォイは言い返した。
「そんなにたくさん本を買い込んで……君のご両親、これから1か月は飲まず食わずだろうね」
その言葉に、ロンの頬がぐっと引きつった。
チユが思わず口を開こうとしたその瞬間――
「ったく、しゃべるたびに気分悪くなるやつだな」
「口の中に毒でも詰まってるのか?」
フレッドとジョージは腕に本を抱えたまま、肩を並べてドラコを見下ろしている。
「それとも、それがマルフォイ家の“教え”ってやつか?へえ……気の毒に」
フレッドが肩をすくめながら言うと、ジョージもにやりと笑った。
ピリッと空気が張り詰めた。まるで小さな火花が、見えないところで散っているようだった。
チユはハラハラしながら2人を見上げる。ジョージの手が軽くチユの肩に触れた。
落ち着け、という無言の合図のように思えて、彼女は小さく頷いた。