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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店




「おいおい、まいったな」


聞き慣れた声が後ろからして、チユははっと振り返る。


ジョージだった。
フレッドと一緒に、列の後ろからやってきたところらしい。2人とも、どこかあきれたような顔をしながらも、人ごみを器用にすり抜けて近づいてくる。


「ハリーは人気者だなあ。ロックハートに勝るとも劣らないぞ、ありゃ」

「いや、むしろロックハートの人気をかすめ取ったってとこじゃない?」


にやにやと笑うふたりに、チユは肩の力が抜けるのを感じた。張り詰めていた心が、ふわっと軽くなる。


「よう、お姫様。つぶされてないか?」


ジョージがチユの前で立ち止まり、軽く覗き込む。チユは目をぱちぱちと瞬かせ、そっと首を振った。


「うん……でも、ちょっと……人が多くて……」


もじもじと答えるチユの手に、ジョージがひょいと一冊の本を差し出した。



「これ、サイン本。さっき裏口で店員と話してたらもらえた。ほら"騒ぎに巻き込まれたくない人用"だってさ。姫にはそっちが似合ってるよ」


「あ……ありがとう……」



ロックハートが壇上で再び大声を張り上げた。


「さて、せっかくの機会ですから、今日ここで発表しましょう!なんと私、今年のホグワーツで『闇の魔術に対する防衛術』の授業を担当いたします!」


歓声が沸き起こり、ハーマイオニーが息を飲む音がチユのすぐ隣で聞こえた。


「うそ……ほんとに……?」


チユはロックハートの派手な笑顔を見つめながら、静かに瞬きをした。

彼の本の中に出てくる“勇敢な魔法使い”は、どれもまばゆくて、少しだけ現実味がなかった。だけど――。


(この人が、先生になるの?)


彼女はそっと胸元の本を見下ろした。表紙にはロックハートが、やはりあの完璧な笑顔でこちらを見ていた。



その時ふと、鋭く冷たい声が割り込んだ。



「いい気分だったろうねぇ、ポッター?」

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