第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店
「おいおい、まいったな」
聞き慣れた声が後ろからして、チユははっと振り返る。
ジョージだった。
フレッドと一緒に、列の後ろからやってきたところらしい。2人とも、どこかあきれたような顔をしながらも、人ごみを器用にすり抜けて近づいてくる。
「ハリーは人気者だなあ。ロックハートに勝るとも劣らないぞ、ありゃ」
「いや、むしろロックハートの人気をかすめ取ったってとこじゃない?」
にやにやと笑うふたりに、チユは肩の力が抜けるのを感じた。張り詰めていた心が、ふわっと軽くなる。
「よう、お姫様。つぶされてないか?」
ジョージがチユの前で立ち止まり、軽く覗き込む。チユは目をぱちぱちと瞬かせ、そっと首を振った。
「うん……でも、ちょっと……人が多くて……」
もじもじと答えるチユの手に、ジョージがひょいと一冊の本を差し出した。
「これ、サイン本。さっき裏口で店員と話してたらもらえた。ほら"騒ぎに巻き込まれたくない人用"だってさ。姫にはそっちが似合ってるよ」
「あ……ありがとう……」
ロックハートが壇上で再び大声を張り上げた。
「さて、せっかくの機会ですから、今日ここで発表しましょう!なんと私、今年のホグワーツで『闇の魔術に対する防衛術』の授業を担当いたします!」
歓声が沸き起こり、ハーマイオニーが息を飲む音がチユのすぐ隣で聞こえた。
「うそ……ほんとに……?」
チユはロックハートの派手な笑顔を見つめながら、静かに瞬きをした。
彼の本の中に出てくる“勇敢な魔法使い”は、どれもまばゆくて、少しだけ現実味がなかった。だけど――。
(この人が、先生になるの?)
彼女はそっと胸元の本を見下ろした。表紙にはロックハートが、やはりあの完璧な笑顔でこちらを見ていた。
その時ふと、鋭く冷たい声が割り込んだ。
「いい気分だったろうねぇ、ポッター?」