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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第3章 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店



なんとか店内へ足を踏み入れると、そこは外以上に熱気でむせかえるようだった。

書店の奥には長い列が蛇のように続き、その先に一際目立つ光を放つ人物が立っていた。


「わ、わあ……」


思わずこぼれた声は、自分でも驚くほどかすれていた。
チユは目をぱちくりと瞬かせる。

机のまわりには、大きなポスターがずらりと並び、そこに写るギルデロイ・ロックハートは、写真の中から絶え間なくウィンクを飛ばしていた。

そのたびに、チユはまるで狙い撃ちされたかのように肩をすくめていた。


実物のロックハートは、まさに“写真通りの笑顔”を浮かべていた。
忘れな草色のローブを完璧に着こなし、髪には品よく波がかかり、斜めに傾けた帽子まで舞台衣装のようだった。

近くでは、小柄なカメラマンが黒い大きなカメラを抱え、あちこちを駆け回っていた。
紫色の煙をぽっぽと上げながらフラッシュが焚かれるたびに、人々がどよめく。

チユはそのたびに目をぎゅっと閉じ、顔をそむける。


「そこ、どいて」


鋭い声が背後から飛んできて、チユはびくっと肩を揺らした。振り返ると、ロンの肩を軽く押しのけるようにして、カメラマンがずかずかと前に進んで行った。


「日刊予言者新聞の写真だから」

「それがどうしたってんだ」


ロンがぼそりと毒づいたのが耳に届き、チユは思わず笑いそうになったが――次の瞬間には、空気ががらりと変わった。


「もしや、ハリー・ポッターでは?」


ロックハートの声が響き渡る。
ざわめいていた店内が、ぱっと熱を帯びるようにざわつき、注目の視線が一斉にハリーへと注がれた。


人の波が自然と左右に割れ、ハリーが浮かび上がるように前へと押し出される。
その流れに巻き込まれたチユは、ふいに足を取られそうになって、とっさにロンの服の端をぎゅっと握った。

ロックハートはハリーの腕をぐいと取り、勝手に前へと引き出す。

その瞬間、チユの胸の奥で何かがきゅっと縮こまった。


「みなさん!なんと記念すべき瞬間でしょう!」


拍手が巻き起こる中、ロックハートはハリーの肩をぐいと抱き寄せ、まるで自分の戦果を誇示するように、彼を掲げてみせた。


「君と私が並べば、一面の大見出し間違いなし!」


フラッシュがまた連続して光る。
紫煙がふわりとチユの方へ流れてきて、彼女は小さくむせそうになる。

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